劇場仕込み日

 朝、七時半に目が覚めた。仕度をしなきゃとうつ伏せになった瞬間、なぜか俺は見知らぬ舞台の袖にいた。
 「じゃあ、例のところはこうしてね」などと指示を出してる。
 役者は知らない奴ばかり。おっと、中山君がいる。
 中山君はおどけた調子で、「ドカさん、それは、○○じゃないっすか?」と言った。
 俺は心の中で、
 (やばい、見知らぬみんなは中山君が冗談を言ったことに気づいてないかも)
 と思い、フルパワーの笑顔で、
 「なーかやーまくーん、それは、○○ってことかーい?」
 と突っ込みをいれた。
 そして目が覚めた。8時50分だった。

 集合時間は9時。到底間に合わない。やってしまった。旗揚げ以来仕込みの日に遅刻したことなど一回もなかったのに…
 するとPHSが鳴った。マミちゃんからだ。
 「すいませーん、15分くらい遅れまーす」
 と、ほえほえ声で連絡してきた。
 俺は布団にあぐらをかいて、
 「まあまあ、慌てないで。ゆっくりいらっしゃい」
 などと、中国の権力者のように鷹揚な態度で答え、電話を切った後猛ダッシュで仕度をし、家を飛び出した。

 劇場入りは10時15分。
 「あちゃー、1限サボっちゃった?」というリアクションが許されるはずもなく、己の非を認めまくった。

 昼過ぎまで音響のブースにこもり、スピーカーのテストなどをし、昨日編集したMDをかけたりした。
 舞台の方はオギノ式が上半身裸で仕切っていたが、最近彼はラムネの食べ過ぎでお腹が霜降りになりつつある。

 受付のセッティング等、細かい仕事は望月がやってくれた。
 彼は去年の夏にぴったりだったジーンズが、今ではブカブカである。
 「つまり去年の俺は異常に太ってたってことですよ」
 と、彼は言う。 
 確かに彼の骨格は、50キロ代が良く似合う。

 夜、場当たり。音響くぼっちもその頃に到着。
 照明と音と役者の動きを同時に指示しながらきっかけを追っていくうちに、自分が何を喋っているのかわからないトランス状態に陥ってしまった。
 ランナーズハイみたいなもんだ。
 きっかけ合わせが終わったのが10時近く。
 役者一同から「寝ろ、健一」と命令形で言われた。

 夜12時帰宅。「寝ろ、健一」と命令されたので、これから命令に従う所存であるが、俺のバイクが東葛西にあるマンションの駐輪場にあるという電話が実家に入ったらしい。
 誰だ? 移動した奴は?