千秋楽と打ち上げ

 12時15分の地下鉄を乗り過ごした時点で、川口さんの芝居「Lesson」の公開ゲネに遅れることはわかっていた。
 早稲田に着いたあたりで宇原君から電話。
 「後どれくらいで着きますか?」
 「今早稲田なので…」
 電話が切れた。

 結局8分遅刻して中野スタジオあくとれに到着。何と、公開ゲネの開始時間を遅らせてくれていた。
 大変恐縮。
 幸先の悪いスタートだ。

 芝居は松本健と、山口忍さんの二人芝居。
 受付手伝いにつるまみちゃんがいた。

 ゲネを見終わってからすぐ池袋に向かう。
 劇場が飽く時間は4時。
 池袋に着いたのは3時だ。
 阿部君と「屯ちん」でラーメンを食う。

 いつもより少し早く劇場の鍵が開いていた。飯野がたばこを吸っていた。
 何となくだべっていると劇場の高沢さんがやってきて、今回の芝居について色々な感想を述べ始めた。
 ふむふむ、ふむふむと30分ばかり拝聴する。

 ノルマの支払い関係の処理や、チケットの整理などをしていると、いつの間にか俺以外の役者は一人残らず消えていた。
 南池袋公演で体を温めるためのゲームをしに行ったらしい。
 合流しようかどうか迷ったが、我が道を行くべく一人マラソンする。

 千秋楽ということもあり、お客さんの入りは平日の割には良かった。
 芝居全体の出来については、役者として出ている俺にはわからないが、俺個人としてはテンションを高く、なおかつ丁寧に芝居をするように心がけた。
 矛盾する二つの心がけ。
 しかし現場に入ればこれが基本だったりする。

 望月めぐみ、坂口さん、見に来る。
 めぐみに差し入れをもらうが「後で開けて下さい」と釘を刺されたので、舌切り雀の故事に習う。
 細田君も来た。
 「面白かったですヨ」
 「ありがとう」
 でもここ3週間ばかり役者の方ばかりに忙しくて、チラシのことを全然話していなかったのがとても後ろ暗かった。
 明日からすぐ進めなければ。

 大学時代、演劇で同期の千ちゃんとみっちゃん来る。
 みっちゃんの唇が妙に潤っていた。

 終演後即ばらし作業にかかる。
 俺は渋谷までレンタカーを借りに行かなければならなかったので、見に来てくれたお客さんとの挨拶もそこそこにオギノ式のバイクにまたがる。
 しかし、先日同様SRのエンジンはなかなかかからず、みっともないことに持ち主のオギノ式を呼んでエンジンをかけてもらった。
 バイクにまたがると、見に来てくれた飯川君夫妻に「面白かったですよ」と声をかけられたのだが、時間に追われていたために「どうも!」しか答えられず。ご用聞きか俺は。

 ただ、この時見た二人連れが飯川君夫妻だったのかどうかは、いまいち確信が持てない。
 オギノ式のきついヘルメットで視界は狭く、なおかつ夜で、バイクにてんてこ舞いの状態だ。
 もしかしたら違う人だったのかもしれないという恐れが、今の俺にはある。

 いくらかの失礼を池袋に残して渋谷に向かう。
 勝手知ったる明治通りをすいすい走り、9時20分にジャパンレンタカーに到着。
 オギノ式の指示通り、受付で手続きをする。

 ハイエースを運転し、明治通りを北に向かう。
 やはりすり抜けのできるバイクとは違って、新宿・大久保を通り抜けるのに時間がかかる。
 10時ちょっと過ぎに劇場到着。
 すぐ積み込み作業に参加。

 10時40分にすべての作業が終わり、打ち上げ先の「和民」へ向かう。
 狭い席に19人がひしめき合う。

 加奈ちゃんと隣り合わせになった。
 人間が持つ普遍的な「闇」について話す。

 2次会は歌広場でカラオケ。
 しかし、酔いを醒ましたかったので、荷物を部屋に置いてから外に出た。
 ぶらりと一回りして店の前に戻ると、竹内君がたばこを吸っていた。
 しばらく、役者のあり方みたいな話をする。
 「出られる芝居が沢山あることに安住するのは甘えだと思うんですよ」
 正論である。
 「正論だと思うよ。でも、結局役者って、自分の人生の何パーセントかが芝居に出てくるから、かつかつでやっている人はそういうのが出てくるし、のほほんとやっている人はそういうのが出てくるし。さらにお客さんがどういう役者に好感を持つのかという問題もあるし。より沢山のお客さんの好感を得られる役者が勝ち残っていくわけだからね。プチ・スターシステムだよ」
 話ながら、例によって思考の迷路にはまってしまいそうになる。
 村上が店の外に出てきた。
 「あれ? お二人?」
 「今、役者について話してたのさ」
 「そうですか。ぼく、これからインターネット喫茶に用があるんで。戻ってこれたら戻ってきます。もし戻ってこなくても締めちゃって結構ですから」
 そう言って夜の池袋に消えていった。

 寒くなったので部屋に戻ると、カラオケの方は盛り上がりも最高潮に達していた。
 宇原君は絶叫し、オギノ式と中山君は互いの乳首をこすり会わせながら「100万本のバラ」を歌い、東さんはまるで黄河の流れのように悠久の時を感じさせる歌い方で西条秀樹を歌った。
 俺も歌ったが、色々考えることも多かった。
 飯野はいつものように、自分が好きな歌をにやにやしながら歌い、歌の合間にコメントを差し挟み、コメントの合間にまた歌っていた。

 朝の5時、最後の歌「黄金バット」を皆で歌い、打ち上げは終了。
 皆さんお疲れさまです。

 始発の丸の内線で実家へ。
 車中、色々なことを考える。
 ネガティブなことやポジティブなこと、色々。
 実家に着き、風呂に入り、朝っぱらからうなぎを食い、精を付けたところで精根尽き果てた。
 うなぎの行方を気遣いながら、ゼラチン質の眠りに落ちる。