心ぽっかり

 昼の1時に起きた。外は風が強いみたいだった。
 コーヒーを入れ、飲みながら、ここ数日の日記を読み返す。

 阿佐ヶ谷南の芝居が終わったことで、去年の3月からほとんど休みなく続いた稽古の日々がとりあえず終わった。
 心がぽっかり空いた気分なのはそのせいかもしれない。
 鮫は泳ぎ続けていなければ呼吸ができなくなって死んでしまうという。
 えらの構造上そうなっているらしい。
 芝居に関わる人間も似たようなものだと思う。
 特に小劇場においては、何かしていない限り「芝居やってます」とは言えない。
 泳ぎ続けていることが、己の演劇人としての存在証明になるのだ。

 だがまあ、今日のところは泳ぐ気がしない。
 ビーチにのんびり寝ころんで、トロピカルドリンクなど飲んでいたい気分だ。

 「スキップ」は面白く、ついつい先へ先へ進んでしまいそうになる。
 コーヒーも今日はどういうわけか無性においしく、ついつい何杯も飲んでしまいそうになる。

 夜、ラジオからZARDが流れていた。
 何だか未来に蓋をされるような気分になったので急いで消し、テレビをつける。
 四谷学院のCMを見て、心を癒す。
 密かに好きなCMだ。
 「今日からあなたが私のキャプテン」

 昨日もらった\\\”望めぐ\\\”からの差し入れを開けてみた。
 何とまあ、ウイスキーを入れる懐中容器だった。
 嬉しがらせるねえ。
 何だかスコットランドで羊飼いをしている人みたいだぜ。
 早速中身を買わなければ。

 ウイスキーとのつき合いは、実は古いのだ。
 高校受験が終わった春休みに、近所の酒屋の自販機で、サントリーホワイトの瓶を買った。
 それをコーラに混ぜて飲んでいた。
 だから「酔っぱらう」という感覚を覚えたのは、15歳の時になる。
 やがて灰色の高校時代がやってきて、何もかもがつまらなくて、週末を心待ちにするようになった。
 深夜に、テレビを観ながらウイスキーを飲むのである。
 それが人生最大の幸せだった時期が、このころ確かにあった。
 当時の日記を調べてみればわかるはずだ。

 大学に入って、おおっぴらに飲めるようになったことで、逆に酒に対するある種の愛情が失われてしまったような気がする。
 人生は、日が沈むまでの労働と、日が沈んでからの酒と、酩酊しながら潜り込むベッド、この三要素があればいいのだ。