稽古始め

 今日は、マグネシウムリボンの稽古始めである。
 稽古始めとは言っても、7月公演の稽古をいきなり始めるわけではなく、稽古用の台本を用意して、エチュードをしたりする、いわばワークショップである。

 「ギョーザ大作戦」の台本ではなく、稽古用の台本を用意しようと思い、午前中に5ページほどの遊べる台本を書いた。
 肩の力を抜いて書けるせいか、苦労なしにすらすら書けた。

 昼の1時から、中野上高田にて稽古。
 松本健、田中智保ちゃんが来た。
 それから、劇団漠の阿部千尋ちゃんが、稽古に参加した。

 阿部さんは後輩で、望月が稽古に来ないかと声をかけてくれたのだ。
 非常に助かった。

 鬼ごっこなどをして体を温め、出来立てほやほやの稽古台本で、掛け合いの稽古をする。
 智保ちゃんと健ちゃんの組み合わせでやってみる。

 「智保ちゃんは、一番リラックスする時は、どうしてるの」
 「ベッドでゴロゴロしてる。人がいようといまいと」

 智保ちゃんに、寝転がって台詞を言ってもらう。
 逆に健ちゃんには、男気のある正座でやってもらう。
 どういうわけか、色っぽいシーンになりそうな気配があった。
 横になった智保ちゃんが健ちゃんに話しかけるとき、健ちゃんよりも目線がかなり下になるため、見下ろし、見下ろされる構図になっていたためだろう。
 設定を変えれば、色々面白いことができそうだなと思った。

 阿部さんには、エチュードをしてもらう。
 彼氏の部屋の間取りを細かく説明するというエチュード。
 説明が細部に渡れば渡るほど面白いというパターンにはまり、説明してくれた部屋の間取りは、迷路みたいなものになっていた。

 途中休憩を挟み、今度は食い物についてのディスカッションからエチュードをする。
 餃子についてのこだわりを導き出したかったのだが、3人とも餃子についてはそれほどこだわりがないらしかった。

 ここで、意外な話を出す。
 「餃子の消費量全国1位の町といったら宇都宮だけど、全国2位の町はどこだか知ってる?」
 皆、わからなかった。
 「じゃあヒントをあげよう。望月の好きな、あるスポーツのチーム」
 すかさず清水エスパルスに魂を売った望月が答えた。
 「静岡ですか?」
 そうなのだ。
 実は静岡県は、その分野では毎年2位なのだ。
 しかし、県をあげて「餃子の町」であることをアピールする様子は見られない。
 望月が、そういえば、といった感じで言う。
 「実家で餃子作る時に、大皿に山盛りになるくらい作るんですよ。あと、ラーメンを食うときは絶対餃子食いますね」
 行政の力や、世間への積極的なアピールなしに、毎年2位をキープする静岡県。
 もしかすると静岡こそ、餃子界のナチュラルチャンピオンなのかもしれない。
 静岡が本気を出せば、宇都宮の運命は風前の灯火、というわけだ。

 しかし、餃子の話は盛り上がらず、何かの拍子にカレーについて話し始めた途端、健ちゃんと智保ちゃんの間で激論がたたかわされた。

 「カレーにね、野菜の具が入ってないのはね、あれダメね」
 と、マギー司郎みたいな言い方で健ちゃんが発言すると、すかさず智保ちゃんが、
 「えー、でも、人参とかは別になくてもいいかなって思う」
 と、反論する。
 そこから熱い議論が始まった。

 これだよ。
 俺が欲しかったのは、その「熱さ」なんだよ。
 食い物についての口論から、別れ話に発展するほどの、「熱さ」なんだよ。

 カレーに関しては、お互い本当に譲れないらしかった。
 恐らく、そのレシピには、お互いのこれまでの人生が密接に関わってくるのだろう。

 智保ちゃんの提案するカレー作りは、言ってみれば、母から娘に伝えられた田中家伝統の味である。
 それを否定されるのは、田中家を否定されるに等しい。
 智保ちゃんはカレーの作り方にこだわりながら、家族を守るために戦っていたのだ。

 一方、健ちゃんの提案するカレー作りは、20代の前半に青春のひとときを過ごしたバイト先のレストランで自ら作っていた味。
 それを否定されるのは、彼の青春を否定されるに等しい。
 健ちゃんもカレーの作り方にこだわりながら、20代に戻りたがっていたのだ。

 確かに、どちらも譲れないだろう。

 さて、議論をそのまま続け、なし崩し的に食い物エチュードを始めたのだが、阿部さんはあまりディープなこだわりがないらしく、口角泡を飛ばし合う二人の間に挟まって、顔を真っ赤にしていた。

 「阿部さんは、好きな食べ物はないの?」
 そう聞くと、彼女は真っ赤な顔のまましばし考え、
 「スイカです」
 と答えた。

 そうこうしているうちにあっという間に時間は過ぎ、午後5時に終戦となった。
 のらりくらりと部屋を片づけ、解散する。
 智保ちゃんはこの後、殺陣の稽古があるらしく、背中に竹刀を差し込んだかかし状態のまま自転車を運転し、新井薬師方面に消えていった。

 中野駅に向かう道すがら、阿部さんと話す。
 これまでにあまりじっくり話をしたことがなかったのだ。
 しかし、面白い娘だったので、また稽古にいらっしゃいと伝える。

 夕方6時過ぎに帰宅。
 久しぶりに演出のポジションで稽古に参加したので、頭の中が妙な感じがする。
 妙な感じを振り払うべく、マラソンする。

 最近、ダイナマイトガイ浅香もマラソンにはまっているようだ。
 体重も3キロ落ちたという。
 うまくいけば、お互いホノルルに間に合うだろうか?