日本語がわからない男

 中野弥生町で稽古。
 音速かたつむりの家城君が稽古見学に来た。

 山ちゃんの持ち札を増やす稽古をする。
 先週は根暗な女性をやってもらったので、今日はどういうわけだか霊能力者をやってもらった。
 まあ、ただ霊感が強いというだけの設定だが。
 山ちゃんがやると、見えている霊に喧嘩を売ってしまうので、人を相手にしているのか霊を相手にしているのかわからなくなる。
 そこが面白かった。

 健ちゃんと智保ちゃんには、台本の部分をやってもらう。
 健ちゃん、喋りが女っぽくなり、妙だった。
 智保ちゃんは、台本上の彼氏である“吉田”を、いかに好きになるかというところで色々悩んでいた。
 「だって、これじゃあたし、別れるよ」
 だそうだ。

 まだ冒頭部分しか台詞にしていないので、吉田というキャラクターに、愛すべき部分をもう少し盛り込むように軌道修正。
 「9回呆れさせるんだけど、10回目にドキッとさせるんだよ、吉田君て奴は」
 と、説明するが、そんな男とつき合っていくのは、女にとってたまらんだろう。
 かといってドキッとさせっぱなしってのも、隙がなさ過ぎて消耗するだろうし。
 「4ボケ2ドキ3ウットリ1ウルウル」くらいがいいのだろうか?

 ちなみに私の目標は、「2ドキ3ウットリ1サバサバ4マーベラス」である。

 さて、見学少年家城君だが、稽古後半になってから、エチュードに参加してもらった。
 日本語がまったく分からない男、という設定で、コミュニケーションをとるエチュード。
 正面を向いて座るその姿は、兄の差し向けた追っ手を逃れ、遠く奥州は藤原氏のもとに身を潜めた頃の、源義経を思わせた。
 その周りで、健ちゃんと智保ちゃんは喧嘩を始め、山ちゃんは黙りこくる家城君を「あんた、ホントは日本語わかるんでしょ」と脅していた。
 家城君はそれをひたすら、堪え忍んでいた。
 俺はいつまでも止めずに、そのままにしていた。

 夜11時帰宅。
 サンドイッチを作り、むさぼり食う。
 シャワーを浴びてから、2時半まで台本の直し。

 吉行淳之介「私の東京物語」読了。
 読むのは、なんとまあ、これが始めてである。
 昭和10年以前生まれの東京人は、遊び方が自然と身に付いていて羨ましい。
 平成13年現在、地方人としての東京人は、激減したのではなかろうか。
 月島の古いラーメン屋なんかに入ると、ごくまれに常連のおっさんがいて、店のおばちゃん相手に江戸言葉を喋っていたりする。
 あれは、かっこいい。
 ああいう風に喋れるなら、どんな人生を送っても、かっこいいだろうと思う。