カタチ鬼

 仕事後、沼袋稽古場へ向かう。
 高田馬場で西武線に乗り換えるつもりだったが、寝過ごして中野に着いてしまう。
 バスを使おうと思い、江古田行きに乗るが、沼袋から離れていく気配があったので、慌てて見知らぬ町で降りる。
 そこへ、雨だ。
 そりゃもう、ザーザー。

 コンビニで地図を立ち読みし、現在位置から稽古場までのルートをチェックする。
 歩いて30分かかった。
 眠いし疲れるし濡れるし、頭に来た。

 稽古場で「カタチ鬼」をする。
 これは、普通の鬼ごっこに、ひとつのルールを付け加えた遊びである。
 捕まりそうになったら「かたち!」と叫べば、その人は固まったことになり、捕まらない。
 が、その場所からも動けない。
 ほかの人がタッチしてやれば、再び動けるようになるのである。
 全員「かたち!」になったら、鬼の勝ちだ。
 もちろん、「かたち!」と言う前にタッチされたら、その人が鬼だ。

 飯野はカタチ鬼の鬼だ。
 貧欠になるまで走る男である。
 健ちゃん以外のメンバーはそのことを知らない。

 「飯野が鬼になったら、大変だよ」
 「どうたいへんなの?」
 「ブラの1本や2本は覚悟しないと」

 運動タイムが終わり、台本の頭から芝居を作っていく。
 やはり、台本のはじめの方は、活字が硬く、芝居にすると嘘っぽくなる。
 そこを、色々やって、柔らかくする。
 楽しいが、苦しい作業だ。

 アザミと茉莉のシーンは、細かい動きをつけている。
 チェックが細かいので、山ちゃんは目を白黒させている。
 やってる方は面白くないけど、見てる方は面白いという感じを出すべく、苦労しているのだが、それを言葉で説明すると、演技が下品になりそうで、怖い。
 今のところ、なだめすかし、だましだましやっている感じ。
 こっちの意図を7割くらい理解してくれるのが一番いいのだが、一歩間違えて全部理解されてしまうと、今度はわざとらしくなるのを防ぐために凄まじい苦労をしなければならなくなる。
 だが、その苦労は、ひとつの公演で何とかするものではなく、演劇人生全体で何とかしていくものだと思う。
 人生設計と、家族計画は、似ているようで違う。