ふるさとは埋立地

 今書いている台本のために、色々と調べ物をする。

 日本陸軍の演習に関する出来事を調べる。
 相模原近辺は、戦前、広大な原野だったらしく、演習中に遭難する兵士がいたそうな。
 その兵士は死体となって発見されたと言うから、よほどその頃の相模原は広大だったのだろう。
 昼は見渡す限りの原野に一人きり。
 夜になれば当然、明かりはない。
 遭難者はまるで砂漠に不時着したパイロットのような思いをしていたに違いない。

 関東地方は基本的には平野で、昼なお暗い森というのは、山間部に近づかない限りお目にかかれなかったようだ。
 明治神宮は人の手で計画的に作られた鎮守の森である
 それ以前の代々木は、ススキが延々と広がる原野だったという。

 江戸川区の南部は、埋立地である。
 埋め立てられる前の古い海岸線に沿って、高さ3メートルほどの高い壁が伸びていた。
 小学生の頃、はしごを使って壁の向こうを覗くと、どこまでもススキの原が続いていた。
 溝やくぼみに水がたまり、そこにトンボの幼虫ヤゴが生息し、秋になると西葛西には、トンボの大群が飛んできた。
 空を見上げると、真っ赤だった。
 適当に虫取り網を振り回せば、嫌というほど捕まえることが出来た。

 壁は、中一になった時に壊され、埋立地は新しい名前の町になった。
 その頃から、西葛西でトンボを見かけなくなった。
 当たり前か。

 埋立地とは言っても、放っておけば原野になる。
 あの当時、俺にとって、ススキの原っぱこそが身近な自然だった。
 今でもススキで草笛を作れる。

 真面目な台本を書いていると、反動でとてつもなく不謹慎な台本を書きたくなってくる。
 同時進行すれば、精神のバランスが保てるだろうか。

 簡単な会話だけ思いついた。

 「どうしたんだ浮かない顔して? 嫁さんとうまくいってないのか?」
 「実は、離婚を考えているんだ」
 「お前ら、おしどり夫婦だったじゃないか」
 「その仲のよさが、あだになっちまったんだ」
 「どういうことだ?」
 「ある夜のこと。飯を食っていると、俺のほっぺたにごはん粒がついていたんだ」
 「ほう」
 「それを見たカミさん、なんてったって新婚ホヤホヤなもんだから、『もう、だらしないよ』とかなんとか言って」
 「とってくれたんだ?」
 「そうなんだ」
 「いいじゃないの」
 「とって、食べてくれたんだ」
 「ますますいいじゃないの」
 「その夜、彼女は異常な腹痛に襲われて、緊急入院した」
 「なに?」
 「その後、俺のほっぺたから、O?157が検出された」
 「…」
 「病院から、離婚届が届いたよ」
 「…今日は、飲もうか」
 「いや、俺、肝臓悪いから」