稽古台本あがる

 去年の4月もそういえば暑かったけど、湿度は高くなかった。
 カリフォルニアみたいだと書いた覚えがある。
 今年はちょっと違うようだ。
 昼過ぎになると、まるで誰かの口の中にいるような気分になる。

 かといって半袖はまだ早い。
 夜になると気温が下がるからだ。
 昨日は八王子で30度を記録したらしいが、夜はやはり10度台の前半なのだ。
 砂漠のような寒暖差だ。

 昨日頑張って「粗忽重ね」の稽古用台本をあげ、やや高ぶった心地で稽古場へ行く。
 エチュードで作る部分は活字にせず自由度を上げるという形をとった。
 役の内面をちゃんと作ることで、台詞覚え=役作りとなる愚を犯さないようにするつもりだ。

 まみちゃん、呆然とした様子で稽古場に来た。
 「大変だよ。部屋借りるのは」
 保証人が決まったのに、就業証明書が必要になり、一悶着あったらしい。
 おまけに風邪気味だった。

 前半は「粗忽重ね」の稽古をする。
 阿部さんの役に背景を加えていき、役の像を明らかにしていく。
 地道な作業だし、成果を急ごうとすると破綻しがちな方法でもあるが、今までの体験から実はこの方法が一番効率がいいのだと思う。

 「阿部さんは結婚したことある?」
 「ないです」
 「だよね、多分そうじゃないかと思った。それじゃ、結婚して3年目くらいの妻が感じる漠然とした虚しさみたいなものは想像していくしかないよね。例えば、夫にどんな態度をとられたらブルーになる?」
 「不機嫌そうな態度とか」
 「なるほどね」
 「でも仕事が忙しかったりするのを自分が知ってたら何も言えない気がします」
 「それじゃ、仕事が忙しいというのが嘘だということを知ってしまったらどうする?」
 「・・・」
 「自分と話をするのが億劫だから仕事が忙しいフリをしていたのだとしたら?」
 「それは嫌です」
 鶴マミ姉さんは言った。
 「あたしは、約束したのに忘れられたりするとすごく嫌」
 中山君は言った。
 「僕は、誕生日を忘れてたことがあります」

 ストレスは色々だ。
 決まった形はない。

 「夏の子プロ」稽古は純粋に動きをつけていった。
 こちらは台本が固まっているので、稽古が進めやすく思える。
 が、役の内面が後回しということでもあるので、「粗忽重ね」と変わりはないはず。

 主役の望月が出しゃばらない芝居をしているのでその点は今のところうまくいっている。
 彼の場合、やる気を出せば出すほど自分自身の癖が出てしまうので、台詞を入れてからが注意のしどころと言えるだろう。
 このままの状態がキープ出来れば、彼にとっていいキャリアになるはずなのだが。

 山本君と和泉さんは少しずつ「やりたいこと」を出し始めた。
 それが俺にとってヒントになる。

 小金井に帰ると急に何もする気がしなくなった。
 疲れ切ってしまったのだろう。
 タバコをやめたからだと思うが、稽古時にかならず起きていた「脳みそじんわり」現象が今回は起きていない。
 やはりあの現象は良くないことだったのだろうか。
 ニコチンなしの脳みそは疲れに対してごまかしがきかないようだ。