ヘミングウェイ「二つの心臓の大きな川」

 アメリカのパソコンメーカーGATEWAYが、日本での販売を再開するらしい。
 実家にあるパソコンはGATAWAY NEO
 4年前に父親が購入した。
 セレロン400Mzh、メモリ64MB、ハードディスク4GBというスペックだった。
 さすがにそのままでは今の時代の使用には耐えられない。
 というわけで、2年前にチューンナップした。
 現在セレロン733Mzh、メモリ256MB、ハードディスク20GBだ。

 改造はメーカーのサポート外とのことだったが、当時GATEWAYは日本市場から撤退していたから、そんなの知ったことじゃないのである。

 最近、インターネットのプロレス配信サービスをよく見るのだが、実家のパソコンで見るとさすがに動作が鈍い。
 映像がコマ落ちしたりする。
 GATEWAY NEO発売当初は、インターネットの動画コンテンツなんてお寒い限りだった。
 なにより、あの頃はまだNTTの電話回線でインターネットに接続していた。

 とりあえず、ADSLの速度に見合うだけのスペックアップはしてある。
 しかし、今後増えるだろう動画コンテンツのクオリティが上がると、もはやついて行くことはできないだろう。
 ハードディスクの転送速度が限界ぎりぎりだし、CPUもこれ以上速いのは載せられない。
 メモリも256MB以上は認識しない。
 行き止まり。

 行き止まりだけど、使い尽くしたという満足感はある。
 骨の髄までしゃぶり尽くしたみたいな感じだ。
 ノアのプロレス配信を全画面で表示させながらつぶやいてみる。
 「まさかオマエ、こんなことさせられるなんて思ってもみなかったろう」

 だが、こんなことさせるレベルにしたのは俺であって、GATEWAYじゃない。
 日本市場に戻ってくる?
 まるで、ナポレオンが失脚した後ぬけぬけと玉座に戻ってきたルイ18世みたいじゃないか。
 出ていった時のGATEWAYはルイ16世か。

 ちなみにルイ16世は、フランスを脱出しようとして捕まり、国民の信頼をなくしてしまった。
 脱出は国を捨てることだし、それを国王がやるとはなんたることかというわけだ。

 GATEWAYがそうだとは言わないが、けなげに頑張る実家PCを見ると、なんとなく親に捨てられたのに頑張って大学まで行った不憫な娘を見るような気分になる。

 昨日に続いて夕方実家に帰る。
 台所の片づけなど、やり残したことがあったのだ。
 母が昨日から富山に行き留守ということもある。
 姉の葬式のためだ。
 洗い物をためておくのはまずい。

 親父が9時頃帰ってきた。
 「健、納豆あるか?」
 「あるよ」
 冷蔵庫から取り出し、パックごと渡してやったら、親父は納豆をラーメンの中に入れていた。
 俺も納豆は大好きだが、そんな食い方はごめんだ。

 11時からNHK-BSでヘミングウェイのドキュメンタリーをやっていた。
 父親が自殺しているということを初めて知った。

 ヘミングウェイは短編集しか読んだことがないのだけど、その中に収録されていた「二つの心臓の大きな川」はとても印象に残っていた。
 男が鱒釣りをして、河原で自炊するだけの話だ。
 だが、ストーリーが問題じゃないということは、読んでみればすぐにわかる。
 釣るために歩き、餌にするバッタは自分で捕獲し、首尾良くつりあげてから食事の支度をし、それを食べ、うまいと思う。
 一つ一つの行動が純化され、余分な思いが入る隙間がない。
 全体のプロセスがまるで宗教的儀式のようだ。
 だから、読むと癒されるように感じる。

 ドキュメンタリーでは、作家の矢作俊彦が、作品と同じルートで釣場に行き、同じメニューを作って食べていた。
 「缶詰のスパゲティーなんてさ、よくアメリカ人はこんなもの食うよね」
 矢作さんは笑っていたが、俺はウマそうに見えた。
 あの設定で料理をしたら、絶対にウマいと言わなきゃいけないだろう。

 非常に面白い番組だった。
 ニュースとドキュメンタリーなら、テレビはまだ面白いのだな。