ゲンゴロウがいた町

 「グインサーガ」の98巻が出ていた。
 新聞の広告で知った。
 4月にはついに100巻目に到達するらしい。
 まずはめでたい、といったところか。

 この前機種変更したPHS、京セラのAH-K3000Vをパソコンにつなぎ、アドレス帳や待ち受け画像の編集をした。
 携帯に比べ劣勢の続くPHSだが、この機種はそんな中で昨年のヒット商品となり、夏頃までには店頭でも入荷待ちが続いていた。
 が、昨年の新機種はこれだけというのも寂しい。
 これからどうなってしまうのだろう。

 携帯電話の隆盛は、通話に関する性能ではなく、カメラなど付加機能の充実にある。
 PHSでもできないことはないはずなのだが、メーカー間の競争が皆無となってしまった現在、そうなることはもはや望めないだろう。
 一発逆転があるとしたら、データ通信の分野だろうか。
 たとえばAH-K3000Vはブラウザを搭載し、パソコン用の普通のサイトも閲覧できるのだが、いかんせん速度が遅い。
32Kというから、インターネット黎明期のダイヤルアップ接続に等しいわけだ。
 つなぎ放題コースにすれば料金の心配はないというものの、ブロードバンド環境に慣れた者にとっては速度の不満は相当なストレスとなる。

 これが256Kくらいの速度になり、しかもつなぎ放題ということになれば、相当な<売り>になるのだろうが、実現はまだ先のことになりそうだ。

 夜、「グインサーガ」を購入。
 その後、久しぶりに西葛西の町をぶらぶらする。
 4歳の時この町に越してきたのだが、その頃の町の名前は<小島町>といった。
 9歳の時に西葛西駅ができるまでは、空き地と小さな町工場しかない町だった。
 それから10年の間に町は激変した。

 今思うと信じられないことだが、小学生の頃には空き地のくぼみにできた池に、ゲンゴロウがいたのだ。
 オタマジャクシやヤゴもいた。
 ゲンゴロウは水の中だけで生活するのではなく、一応そらも飛べる。
 オタマジャクシはカエルになれば陸地を移動できる。
 ヤゴだってトンボになる。
 だから、工場の空き地にできた即席の池にこういう生き物が生息するのは、別に不自然ではないのだ。

 ゲンゴロウは小学校4年生の時によくつかまえた。
 うちの前にリース用工機を置いておく広いスペースがあり、そこの片隅にできたくぼみが水たまりになっていて、ヤゴとゲンゴロウがたくさんいたのだ。
 ゲンゴロウは水底に住み、餌となるオタマジャクシに集団で襲いかかる。
 呼吸をする時に水面に上がり、また水底へ沈んでいく。
 水面に上がってきたところを網ですくうか、あるいは裸足になって水に入り、隅の方に追いつめれば簡単に捕まえることができた。
 ヤゴも同様だ。

 ゲンゴロウとヤゴとオタマジャクシを蓋をはずした水槽に飼っていると、まずオタマジャクシがヤゴに食べられてしまった。
 次にヤゴがゲンゴロウに食べられてしまった。
 お腹がいっぱいになったゲンゴロウは、どこかへ飛んでいってしまった。
 食い逃げされた気分だった。

 夜の西葛西を歩いても、そのようなことを思い出させるものは何一つ見つけられなかった。
 ゲンゴロウのいた敷地は、ビルが建っている。
 その隣にあった銀行は、紆余曲折を経て、今は<三井住友銀行>だ。
 もとは何銀行だったか、思い出せない。

 うちに帰り、「グインサーガ」を読む。
 乱暴に要約すれば、記憶をなくした<グイン>という豹頭の戦士が、己の素性を求めていくうちにどんどん出世していくというストーリーだ。
 最近、主人公グインはまた記憶をなくしてしまったのだ。
 だから、100巻が目前だというのに、1巻を読んでいるみたいな気になってくる。
 この既視感が面白い。

 100巻を越えてからはどのように終わらせるつもりなのだろう。
 だらだら続けるのだけはやめて欲しいものだ。