成瀬己喜男『浮雲』

 9時起き。
 衣装探しのため、埼京線の戸田駅へ。
 山ちゃんと待ち合わせ、彼女がよく衣装探しをする古着屋へ行く。

 隣の戸田公園駅と比べて、マイナー感が漂う戸田駅から、歩いて20分ほどのところに店はあった。
 トモミゴロの衣装とマミちゃんの衣装を中心に、あれこれ物色する。
 レトロワンピースのコーナーで、柄中心に気になるものを写真に撮る。
 1時間と少し店で粘り、話し合いながら店を出る。

 駅までの道のり、山ちゃんから劇団についての話を色々聞く。
 こうした機会に話すと、時間は短くても、とてもためになる話ができるなあと思う。
 彼女のやる気や、これからどうしていきたいかという話が聞けて、とても有意義な帰路だった。
 自分が思っていることも、整理して伝えていきたい。
 その前に、謙虚になりたい。
 「俺は謙虚になるよ」
 といきなり言ってしまった。

 が、謙虚じゃないからそんなことを言えるのであって、つまり今の自分は謙虚じゃないのだと認めてしまったことになるのかな。
 なんてことを考えつつ、ゴダードの『蒼穹の彼方へ』を車中で読みながら帰る。

 新宿駅でコージーコーナーのエクレアを買う。
 近所の富士食鮮館で牛肉とピーマンを買う。

 1時過ぎ帰宅。
 遅めの朝食、というよりは昼食を食べる。
 大根の葉っぱと長ネギを刻んでごま油で炒め、酒と味噌で味付けしたものをご飯に乗せて食べた。

 3時過ぎ。
 NHKでフィギュアスケートのダイジェストをやっていた。
 村主章枝の眉毛が、カタカナの「ハ」みたいになっていた。
 織田信長の子孫であるという織田信成くんの、1位になった瞬間の号泣シーンが猿みたいだった。
 猿はご先祖様の部下じゃなかったか?

 吉本ばななと岡本敏子の『恋愛について話しました』読む。
 対談集。
 写真の敏子さんは、とてもすてきな笑顔で笑っていた。
 対談をしてまも亡くなったらしい。
 「セクシーでなくちゃ」
 の言葉に思わずうなる。

 夜、久々にオムライスを作る。
 先週、牛肉のワイン煮を作って余ったソースがあるので、これを缶のミートソース半分に加え、フライパンでご飯と混ぜる。
 このライスを卵で包み、ケチャップは卵の表面だけにかけた。
 あとは大根のみそ汁。
 牛肉とキャベツとタマネギとピーマンの炒め物。
 かなり、お腹いっぱいになった。

 成瀬己喜男『浮雲』やっと見る。
 たしか秋頃にNHK-BSでやっていたものを実家で録画して、そのままになっていたのだ。
 森雅之と高峰秀子の、ダメな恋愛物語。
 こう書くと、ダメな恋愛に関して二人が卑屈になっているかのようだが、全然そうではないところに凄みがある。

 森雅之の演じる男は、女を取っ替え引っ替えしているのに、高峰秀子との関係がなぜかずるずる切れずにいて、最後は仕事の赴任先である南の島で、病気になった高峰秀子の死を看取る。
 そこで森雅之は、泣くのだ。
 映画をはじめから見ていれば、
 (おいおいお前、あれだけ迷惑かけといて泣くかね)
 となるところだが、ダメ恋愛だからこそ、相手の死を悲しむ気持ちが妙に純化されて、心を打つ。
 それを愛と言ってもいいが、こんな形でないと表現できず、さらにお互いそれを確認し合うことができずに終わることには、なんとも苦い思いがする。
 フランス映画みたいだ。
 こんなものを50年前に作っていたのか。 

 小津安二郎はこの映画を試写で見て一言、
 「これで今年のベストワンは決まったね」
 とつぶやいたという。
 「俺にはとれないシャシンだ」
 とも言ったという。
 恋愛のとらえ方という意味で、確かにその通りかもしれない。

 黒澤明がまだ駆け出しの頃、成瀬監督の助監督についたことがあるらしい。
 疲れて、幕の裏で居眠りをしていたら、撮影にきた成瀬監督はいびきを聞き、
 「居眠りしてる奴がいる。面白くないから今日は中止だ」
 と言って撤収してしまった。
 数十年後、黒澤さんは、
 「あれは実は私でした」
 と、成瀬己喜男に謝ったという。
 成瀬監督は笑っていたそうな。
 好きな話だ。