飛ぶ教室

 今週は台本を書く時間を1とするならば、本を読む時間が3くらいの割合だ。
 モールズワース『かっこう時計』読む。
 しかし、ファンタジーは今読む必要がないと気づき、途中で断念する。

 椎名誠『かえっていく場所』読了。
 『春画』の続編。
 奥さんの一枝さんはチベットへ。
 息子と娘はアメリカへ。
 家族のそれぞれが、自分の行くべき場所を見つけた。
 そして椎名誠は、憂鬱から逃れるため強引に仕事や旅を続けている。
 繊細だった神経を頑丈な肉体が宿すことで精神と肉体のバランスが取れていたのに、肉体が老いていくことで繊細な神経がむき出しになってしまったかのようだ。
 そのためかもしれないが、どの作品にも妻への気遣いが溢れている。
 そして皮肉なことに、体の弱かった妻の方がチベット行で元気を取り戻していく。

 渡辺一枝『時計のない保育園』読む。
 一枝さんは17年間、保母の仕事をしていた。
 どうして保母になったか、そしてどんな保母になろうとしたのかが、詳細に綴ってある。

 教育番組の言葉の使い方を、全面的に否定している。
 言葉は人に語られるもので、声には方向があるというのだ。
 お姉さん口調のように、
 「ねえねえ、ちょっと聞いてくれる?」
 と言っても、誰に向かって言ってるのかわからない。
 「ちょっと聞いてくれますか?」
 と言えば、誰かに呼びかけてるという感じがする。
 なるほど。

 夜、五日市街道沿いのサイゼリアに行き、本を読み台本を書く。
 途中、PHSに着信した。
 劇団漠の土田さんからだった。
 「今日、打ち上げがあるんですけど、いらしてくださいませんか?」
 「何時からですか?」
 「夜の11時半から国分寺です」
 その時点で夜の9時半だった。
 それに、11時半開始の宴会だと、終わった頃には家に帰れなくなっている。
 「誘ってくれてありがとう。行けたら行きますが、あまり期待はしないでください。楽しく飲んでくださいね」
 と言って電話を切った。

 サイゼリアには10時過ぎまでいた。
 10時半帰宅。

 ケストナー『飛ぶ教室』読了。
 読み残していたのは、家の経済状態が悪く、クリスマス休暇に家に帰る旅費を送ってもらえなかったマルチンの話。
 両親は頑張って帰りの汽車賃を工面しようとしたのだけど、どうしても足りない。
 仕方なく、旅費には足りないが一人でケーキを買ってお祝いできる分のお金と、クリスマスプレゼントを送った。
 マルチンは、自分だけが一人学校に残ってクリスマスを過ごさなくてはならないと知り、当然ながらショックを受ける。
 だけど、両親の事情もわかり、それは自分にはどうすることも出来ない。
 そして、そんな自分のことを、決して友達には知られたくないし、もちろん絶対に泣きたくない。
 それで、ベッドに潜り込んで呪文のように、
 「泣くこと厳禁…」
 と唱えるのだ。

 このあたりで一回止め、ティッシュペーパーを傍らに置かねばならない。

 みんなが列車に乗って帰る日、一人残ったマルチンに、正義先生は気がつく。
 わけを聞いた正義先生の前で、マルチンは四粒だけ涙を流してからそれをぬぐい、精一杯泣かないように頑張って事情を話す。

 読んでいる俺は四粒どころではない涙で顔面をぐちゃぐちゃにし、ティッシュをそこら中に散乱させている。
 昔から、こういう話に弱いのである。
 昨日読まなかったのは、読んだら一日中気が高ぶって仕事にならないだろうなと思ったからだ。
 それで今日の夜に読み終えたのだが、気が高ぶって寝られなくなってしまった。