愛のエプロンに愛などない

 夜、実家へ。
 洗面所で手を洗うと、ラストシーン書きのストレスがもろに顔に出ていた。
 夕食がカレーライスであることさえ腹立たしく、
 「もうカレー飽きたんだよ!」
 と、受験ノイローゼみたいな態度を親に示す。

 そういえば、オレの受験時代は半分ノイローゼ気味だったなあと今にして思う。
 その時初めて、自分の家はうるさいのだということを認識したのだった。
 たとえばテレビの音。
 電話の声。
 両親の他愛ない口論。
 すべてが耳に突き刺さり、18歳だったオレはそのたびに部屋のふすまを開けてうるさいうるさいうるさいと怒鳴り散らしていたのだった。
 台本のラスト書きを残している今日の自分は、18歳の頃の自分と同じ状況にあった。

 しかしさすがに、今は大人だ。
 「飯、いらねえ」
 と食卓に背を向けることはなく、黙ってカレーを食べた。
 飽きてはいても、まあ、食える食い物だ。

 問題なのは夜の11時頃までで、その時間までは居間のテレビがほぼつけっぱなし。
 ボリュームは最大の8割くらいで、当然オレには大きすぎる。
 「愛のエプロン」の音だけ聞き、作為的にキャスティングされたインリンやデビ婦人や中澤裕子の下手くそ料理実況に胸の悪くなる思いをした。
 彼女らが悪いと言うんじゃなく、そういうキャスティングすんなよといつも思う。
 料理女王の未唯だけ放送すりゃいいじゃねえか。
 作り方の細かいところまで余さずやってくれれば、ちょっとは見ようと思うぞ。
 インリンやデビ婦人が作った大失敗の茶碗蒸しを審査員が食べるところなど、誰も笑わないぞ。
 笑うのはバカだけだろう。
 「この番組は、バカが見て喜ぶように作っています」
 そんなテロップを出し、なおかつまずい料理を作る連中は必ず手首を切って自分の血を料理に混ぜるとかしてくれたら、ちょっとは見直すのだが。
 そんで貧血になって途中退場してくれたりね。

 テレビの音を聞くだけでイライラが増すので、11時まで部屋で仮眠をとる。
 テレビが消えてから、パソコンをつけ、4時まで台本書き。
 そんな時間でも、テレビの音に悩まされながら書くよりは数倍マシってものだ。