歌舞伎町迷い道

昨日は予定よりも早く帰宅でき、ほっとしたところで気がつくと今日は稽古初日なのだった。
10月のプレ稽古期間に、随分思うところがあったのだけど、それを実践に移すまでにはまだ至っていない。
やはり、プレ稽古と稽古は、何かが違う。
オープン戦と公式戦みたいな。

稽古は夕方からだった。
6時丁度に西荻の北にある稽古場へ向かう。
今週火曜にやった稽古に集まったのが4人だったので、10月の稽古総まとめができなかった。
それがかなり心残りだったので、今日は台本を使わず10月稽古の続きをやった。

要は、一つのエピソードからワンシーンを作っていくというもの。
誰のエピソードを使うか迷ったが、じゃんけんで負けたため、オレの高校時代の話を使うことになった。

どんなエピソードか?
高校1年生の夏休みだった。
中学時代からの友達と、ビートルズの映画を見に、シアターアプルに行った。
上映開始時間が夜の7時過ぎだった。
映画を見終わって外に出ると、歩いている人種が夕方とは違っていた。
日が沈むまでは江戸川区の高校一年生でもなんとかなる世界。
だが、夜9時以降はプロ仕様の街だった。
映画館を出た途端、パンチパーマ姿の限りなくヤクザに近いヤクザが目の前を横切った。
瞬間的に防衛本能が働き、右に曲がった。
しかし、シアターアプルを出て右に曲がっては、新宿駅からはむしろ遠ざかってしまう。
結果的に我々は、よりコアなゾーンへと足を踏み入れる結果となった。

同行の友人は二人。
T君とA君だった。
涙目になりながら、おそらく区役所通りのあたりを「平安京エイリアン」のようにうろうろしていると、呼び込みらしき男がT君の肩に手をかけた。
「ようよう、店探してんの? 3人でしょ? 安く飲めるよ?」
そんな感じのことを言われた。

何しろ当時は16歳だ。
心臓には羽毛が生えていた。
肌もつるつるだったし、チョコラBBなしでチョコが食えた。
だから、海千山千のそんな兄ちゃんの勧誘は、「ドラクエ」でいえばドムドーラに向かう途中「よろいのきし」に不意に遭遇する驚きに匹敵した。
「にげる」を選んでも、回り込まれる世界。

T君は道に迷ったあたりから、夜の街に「なめられないように」怖い顔をしていた。
しかしそれは、T君が涙をこらえるときの状態だった。
涙をこらえる状態は、一歩間違えると「切れる寸前」ではある。
「ようようよう」
と勧誘を続ける「よろいのきし」に、T君はついに切れてしまった。

「離せよおおお!」
T君は絶叫し、勧誘兄ちゃんの手をふりほどいた。
A君とオレは、とっさに目配せした。
(やばい!)
(殺される!)
理不尽ではあるが、そう思った。
思うや否やオレとA君は、加速性能世界一を謳うブガッティ・ヴェイロンの如くその場から逃げ出した。

明治通りとおぼしきあたりに出て、オレ達は思った。
(助かった)
大げさな話だが、何しろ心臓に羽毛の生えた16歳である。
背中には天使の羽である。
なんなら萩尾望都に描いていただきたい時代の我々である。
しかし現実には谷岡ヤスジが描くキャラのような体たらくの我々ではあったのである。

「あいつ、来ねえな」
「どうしよう?」
「待つ?」
「でも、別の道から逃げたかもしんねえぜ」
「終電終わっちゃうぞ」
「どうしよう」

こんな感じの会話をしてから、我々はタクシーを拾った。
おそらく花園神社前あたり。
運ちゃんにはこう言った。
「新宿駅までお願いします」
運ちゃんがなんと答えたか、覚えていない。

懐かしきふるさと江戸川区に帰り着いたのは、夜の11時だった。
T君がどうなったか気になり、その時刻にもかかわらず彼の家に電話をした。
驚いたことに、彼は家に帰っていた。
しかし、オレとA君が逃げたことに、非常にショックを受けていた。

…とまあ、こんな感じのエピソード。
これを、ふたチームに分けて演じてみた。

吉田さん、鶴マミ、直美のチーム。
オレ、綾香、ノブ君のチームに分かれた。
実際にやってみると吉田さんは手練れであった。
彼の「芝居ッ気」に引きずられるような形で、三人のテンションは妙に高くなっていた。

オレ・ノブ・綾香の3人は、別な戦術をとってみた。
相手チームとは別の出し方になったが、テンションは向こうの方が高かったかも知れない。

とまあ、こんな感じで稽古は終わった。

稽古後、西荻窪の「坐・和民」で簡単に飲み会をした。
今回の出演者は8名。
そのうち、久保田君は客演する劇団の本番が近いこともあり、まだこちらの稽古には参加できない。
だから現在のところ7名。
『ラジコン少年』は13名だったから、だいぶ少なくなった感じがする。
が、正直な話、台本を書く立場からすれば、このくらいの人数が一番やりやすい。
10人を越えると、しんどさが乗数的に増加する。

吉田さんはかつて、「木野花ドラマスタジオ」時代に一緒にやった役者である。
卒業後はそれほど多く会っていない。
一度、池袋にあるビルのエレベーターホールでばったり会ったことがある。
それぞれ、別の会社でアルバイトをしていたのだ。
今回誘ったのは、かつて吉田さんと一緒にやった芝居のスタイルが、今回の公演と重なるかもしれないと思ったからだ。

12時近くまで飲み、参会。
さて、今回の座組みは、どうなることか。
どうか、良き芝居になりますように。