帰らないウラシマ

朝、ウトウトしながら、死について考えをめぐらせていた。
オレもいつか死ぬのだなあ。それが今日だったらどうなるんだろうか。いつ発覚するんだろうか。
こういうことを考えたからといって、死にたいと思っているわけではもちろんない。
起こりうるという認識を、新たにしているだけだ。
考えなかったからといって、死が遠ざかるわけでもない。

死の有り様を考えるようになったのはここ一年だ。
気分が明るくなるテーマではないが、考えておかねばならない時期なのだと思っている。

起きて仕事へ。
作ってきたツールのテスト版公開準備をする。

昼、ムーマナオ・ヌードル食べる。

昨日、高倉健のムック本を読んだ。

健さんの妻だった江利チエミは1982年に亡くなった。
孤独死だった。
健さんがそのことについて公に語ったことはない。
だが、一度は断った「南極物語」のオファーを受けたのはその後らしい。

健さんが向き合ってきたのは、老いではなく、死ではなかったか。
贖罪の気持ちと、救いを求める気持ちが混じり合い、普通の人間として老いるのではなく、死がやってくるその時まで、語らず、受け入れ、節制する人生を選んだのではないだろうか。
元妻の死によって。
離婚していなかったら、どうなっていただろう。

夕方、新宿で潮田くんと会う。
「世界の山ちゃん」で飲む。
この店のマスコットキャラクターみたいな男は社長なのだろうか?
ソフトバンクの工藤監督にしか見えないのだが。

積もる話、色々する。
ガールズバーに行き、酔って気前が良くなりすぎ明け方まで居続け、3万5千円も取られた話など聞く。

「久しぶりに役者やってみたら」
潮田くんは笑った。
「僕、どんな役やれますかね」
ガールズバーではしゃいでいる姿が頭に浮かんだ。
「浦島太郎の話」
「ほう?」
「いつまでたっても帰らず、延々と竜宮城で飲んでる話。タイトルは、帰らないウラシマ」

ワンアイディアだけど、そこそこ面白いものになるんじゃないかと思った。

次回のマグ公演の話もした。
「杉並区を舞台にしようと思っているんだ」
「じゃあ、杉並区民のお客様は杉並割りですね」潮田くんは言った。「劇場は中野なのに」
「そっか。じゃあ中野区を舞台にしようかな」
「いいんですよ。杉並割りで。で、中野区は、やらせてもらっている場所だから、しょうがなく中野割を50円くらい」
洒落になってくれるだろうか? くれるならやりたい。

10時半に店を出る。