おいちい事件

6時起き。風呂に入って汗を流す。
朝食に鯵、納豆、大根おろしを食べる。

オリンピックの、スピードスケート女子の団体追い抜きで、日本チームが金メダルを取った。嬉しそうに手を振っている四人がほんとうにかわいかった。
役者はこの心の状態を、舞台の上で作るのを目的とする。嘘はばれるが、嘘はとても多い。たまに嘘でない人がいて、宝石を見つけたような気持ちになるが、新人であることが多く、やがて嘘を学び、嘘になっていく。

外はみぞれが降っていた。

記憶術のことが気になって調べたら、人の顔と名前を覚えるテストがあることを知った。マグ公演「顔と名前」みたいじゃないか。あの芝居は、記憶術の芝居としてリライトできるかもしれない。

「顔と名前」は、イベント運営会社が、怪しいネズミ講まがいの経営者との癒着を断ち切る話だ。
いや、人の顔と名前を覚えるのが苦手な営業マンが、講習を受ける話だ。
あるいは、仕事の面白さとつまらなさについて、われに返って考察する話だ。

ようするに、サラリーマン喜劇をやりたかったのだが、ラストで意図せぬ展開になってしまった。カルトの教祖をやっつけて、別のカルトを設立するみたいな落ちだ。

「顔と名前」は、役者が稽古場に揃わず、とても苦労した。あて書きをしていく方法をとっていたので、そこにいないと台本が進まず、完成が遅れた。
「回転一座」は、あて書きをせず先に書いたが、先に書いたからといって、役者が揃わない時は揃わないということがわかった。全員揃った日が一日もなかった。異常だったと思う。「顔と名前」なんて、まだ揃ってた方だ。

稽古場に行きたくない気持ちは、わからないでもない。「今日は台本書きたくない」っていう気持ちと同じだ。書かなくても、それを人は知らない。でも稽古を休むとみんなに知られる。不公平といえば不公平だ。

10年以上前のマグでは、稽古出席率で悩むことはそんなになかった。当時の方が昼稽古もあったし、大変だったはずだ。なぜだろう。

役者としては、台本を受け取り、「仕事」としてこなして、いい芝居を見せたいという思いがある。しかし、そう思っている役者が作ってきた芝居が、テキストから意味を汲み取って、大げさにする言い方になっていると、「おまえは選挙カーか」と突っ込みたくなる。

フリー役者時代、相手の女の子の頬に触れる場面があった。そこで何かごまかして、去って行くのだが、ごまかしのセリフが決ってなかった。「なにかアドリブで言って」と演出に言われた。で、女の子が「なに?」という顔をしたのを受けて、「ごはん粒がついてた」と言ってみた。すると演出が言った。
「去る前に、ご飯つぶを食べて、おいちい、って言って」
おいちい、だと? すぐに言い返した。「僕の役、寒い奴って設定ですか?」
演出は言った。「いや、お茶目な奴なんだよ」
「ギャグセンスゼロの、寒い人間にしか思えないっすよ。それならごはん粒なんか、なくっていいっす。つまんないし」
「じゃあどうすんだよ」演出はイラついている。
「普通にためらって去ります」
「笑い、来ないじゃん」
「おいちい、で笑いがくるなら、おれ、やめて就職しますよ」
「何言ってんだお前」演出は気色ばんだ。
そのあたりのどこかで、誰かが「まあまあ」ととりなしてくれた。
今だったらどうするだろう。おいちい、って、言うか? 言わないだろう。
でも、大人になった分ずるくなったので、うまいことごまかすはずだ。どう思うお前?
「それは塚本さんが悪いですよ」
「なんで?」
「演出の言うことは絶対でしょ」
「それじゃ軍隊じゃないか」
「誰にも使われなくなりますよ」

使われなくなったから、マグを旗上げしたのだ。

「塚本さんも、きっと誰かに「おいちい」って言わせてきたんですよ。そのつもりはなくても」
「いくらオレの才能がミニマムでも、おいちいを言わせるほどじゃないぞ」
「おいちい、で、バカ受けする世界を想像してください」
「ジョン・レノンはそう歌ってるのか?」

とにかく今は、いい戯曲を書きたい。身の回りのことをスケッチするだけでなく、核心にあるものが、何年経っても伝わるものが書きたい。
そういうのを書こうという志向は今までなかった。身近なことから主題を得て、作品をローカルなものにしていた。

昼、ミニストップでミックスサンド、ジューシーチキン、キャベツサラダ食べる。

Amazon prime でDENKI GROOVE THE MOVIEを観る。全部は無理なので、見たいところをシークして観た。

サービスを検索してみると、見たかったけどまだ見ておらず、でもわざわざ借りに行くほどでもない作品や、10年以上前に見たけどもう一度見たいと思う作品がけっこうあった。三ヶ月くらい休暇があれば見尽くせるだろうに。

定時に上がり、千駄ヶ谷のホープ軒へ。もやしラーメン食べる。普通のラーメンより150円も高いのに、乗っているもやしの量は大したことなかった。のせ放題のネギで、その辺りのサービス感は調整できるが、期待外れではあった。
それでも、千駄ヶ谷ホープのスープにもやしはとても良く合った。

食べ終わり、千駄ヶ谷の駅に歩きながら、ホープ軒の味が変わったことを考える。初めて行ったのは21年前だった。その後しばらく行かなくなり、青山で働いていた2003年から2006年の間に何度か行った。その頃のスープは塩辛く、飲み干せなかった。
その後、改装工事があってしばらく閉店していたらしいが、その時期は行っていない。
2010年頃から、時々食べに行くようになった。以降、年に1、2回のペースで食べに行くようになっている。そして、ホープ軒のスープを再び飲み干すようになったのも、2010年以降だ。
改装工事後は、スープが濃くなった。だから、返しを濃くしなくても良くなり、塩分も低くなっているのだ。

ラーメン二郎でスープを飲むことはない。二?は、インスパイア系も含め、店舗が増えたことで味の血統が曖昧になったと思う。ジロリアンはその多様さを「利き二?」することで楽しんでいるのだと思うが、25才の時に初めて食べた二?の味に、その後一度も出会えていない。その頃はフリー役者だった。二?は「おいち」かった。

7時帰宅。DENKI GROOVE THE MOVIE? を最初から見る。至福だった。10時半就寝。