決断

4時起き。ガスレンジでお粥を炊き、タイマーをセットして寝る。
5時半に起きると、お粥の火は止まっていたが、粥の出来は良くなかった。水が多すぎた。もう少しねっとりさせたかったので火をつけて煮詰めた。

粥と味噌汁の回復食を食べる。ファスティング中、塩分は適度に取っていたので、味に感動するということはない。いつものこと。

稽古をし、10時から見てもらい、11時に帰宅し、再び家を出る。
西葛西へ。

臨海病院へ行き、父の病室に入る。
父は寝ていたが、気配を感じて起きた。

昨日から色々思うところがあって、今日病室に行かねばなるまいと思っていた。
父が言った。
「手術、やった方がいいかな?」
父は、確信が持てない言い方をした。
先週も同じことを言ったが、その時はまだ手術に向けた検査をしていなかった。だから術後の食生活はそれほど変わらないだろうと言い、父はとりあえず、受けようと思ったようだった。
しかし昨日の外科医の説明は、要するに、この手術は危険だということを我々に確認させるようなものだった。
「しない方がいいと思うんだね?」と聞くと、父は「うん」と答え、自分の年齢のことや、思っていることを言った。

病室に行くまでは、手術を受け、リハビリ期間を想定し、ゴールはいつ頃になるかを話してみようと考えていた。しかし、切除部位、技術的困難さ、現在の健康状態、年齢、術後リハビリの負担、それらのことが頭に浮かび、奨めるのは正しい選択ではないと確信できた。

昨日、病院からもらった書類にサインしていて、まだ印鑑は押していなかったので、渡す前に母にこのことを話そうと思った。それからナースステーションで、結論を伝えればいい。
父に、希望は間違いなく叶えるとその場で約束し、いったん実家へ帰ることにした。

母も、ひと晩考えていたらしく、今朝、看護師をかつてやっていた友人に会って相談していたらしい。ただ母は、父が手術を受ける気でいると思いこんでいた。母に、それは違うと伝え、思うところを話す。母も、やはり手術はしない方がいいと思っていた。

病院に戻り、ナースステーションで父の意志を伝えた。説明していると、理由づけを積み重ねていくような気がしてすごく嫌な気持ちになったが、看護師は「それも患者さんの意志ですから」と言ってくれた。

父は、すぐに退院できると思っていたようだが、もちろんそうはいかない。来週、外科医の先生に今後のことを聞き、それから、ということになる。

病院を出て自宅へ帰る。電車の中で妹に、こうなった経緯をメールした。妹から返事が来て、彼女もひと晩考えていたらしく、結論は同じだった。

今にして思うと、外科医の先生は、本心では手術を奨めたくなかったのではないか。
胃を全摘出し、小腸と食道をつなぐために肋骨を折ってそこからオペをする。気胸があるから途中で呼吸が漏れる可能性もある。心臓や腎臓の具合も良くないし、血管も衰えている。成功しても、間違いなく体力は大幅に削られるだろうし、リハビリができるほど回復するまでどのくらい時間がかかるかわからない。回復しても体力が落ちきった状態で始めないといけない。どのくらいリハビリすれば退院できるかも定かではない。
このまま退院すれば癌は胃に残る。自然治癒することはない。だが今は、自分の足で立って歩け、頭もはっきりしている。先日、告知をした医師も、一週間かそこらですごく進行するというわけではないと言っていた。

昨日、手術の説明を聞く前に父と話した時、夏には退院して、家でコップに一杯のビールを飲むことをひとつのゴールにしようと言った。しかし手術をしたら、そのゴールは来ない可能性が高い。

とにかく週明け、先生と話し、退院時期を決め、あとはその先、都度、やっていくしかない。休眠療法のように、治癒ではなく共存していく方法が一番いいのではないかと思うが、そういうこともすべては、退院してから話せればいい。