千秋楽

 10時に小屋入り。
 しっかりアップをしてから、ロビーで日高さんから、集合時間遅れの役者がきちんと舞監に連絡を入れないことについて注意される。
 いつの間にか自分のことばかり考えていた。
 本日は千秋楽。
 これまでのことを自省しつつ本番まで過ごす。

 1時にマチネ開演。
 芝居がより丁寧になった。
 イラストを描いてくれた故林さん見に来る。
 終演後挨拶をする。

 マチネとソワレの間が2時間しかないので、あわただしく次の回の準備に取りかかる。 松本さん、日高さんとトラック回送の打ち合わせをし、食事をする暇もなく準備に忙殺される。

 5時ソワレ開演。
 マチネより体の力が抜け、より自由さが増していた。
 昨日の夜、今日の昼、そして夜と、芝居が上向いたまま終われた。
 このまま10回くらい続ければ、どうなっていただろうか。

 ソワレ終了後、すぐにバラシ。
 音響機材を片付け、ベンチシートの足を取り、パイプ椅子運びを手伝う。
 健ちゃんと制作の簡単な話をしたり、自分の荷物を整理したりと、体が一つところに留まることがなかった。

 8時30分過ぎにトラックを借りに行く。
 2トンロング。
 雨が降り始めており、中杉通りでの積み込みは少し雨に濡れた。
 20分あまりで積み込みは終了し、松本さん、久保田君と3人で相模大野の倉庫へ。

 倉庫で簡単な積み替えをする予定だったが、倉庫そのものの動線確保に時間がかかる。
 11時に倉庫を出る。
 高速を飛ばしたが、阿佐ヶ谷に戻る頃には1次会が終わりかけていた。
 オレが打ち上げに遅れるのは普通のことなのでまったく気にしないのだが、久保田君には気の毒なことをしてしまった。
 いっそ、動ける男全員を荷台に乗せてくれば良かった。
 その方がもっと早く終われただろう。
 「今度焼き肉おごるよ」
 そう言って謝る。

 日高さんが帰らずに待ってくれていた。
 お世話になりましたとご挨拶する。
 もし挨拶もできなかったら心残りになるところだったので、急いで高速を使った甲斐があった。

 南口に移動し、2次会。
 久保田君に好きなものを食べさせようと思いメニューを見るが、大したものが置いてなかった。
 隣の阪上君が店員の態度に腹を立てていた。
 「返事もしないんですよ」
 そういえば、
 「すいませーん」
 と呼んで注文をした時、店員さんは、
 「はい」
 ではなくて、
 「うん」
 と答えていたようだ。

 しかしその店にはテレビが置いてあり、ワールドカップの決勝戦を流していた。
 イタリア対フランス。
 戦力的にはイタリア優勢だが、フランスには勝ち進むにつれて輝きを取り戻したジダンがいる。

 疲れているのか、そうでもないのか、自分でもよくわからない時間が過ぎていった。
 サッカーの試合は、ノブ君がじっと見ており、
 「今、ジダンがレッドカードもらいましたよ」
 と教えてくれた。
 「運転があるから少し寝てください」
 と言われもしたが、中途半端に寝た方がかなり辛いのだ。
 結局、20分ほど横になって、あとはずっと起きていた。

 1対1のまま試合は進んだ。
 延長も使い切り、試合はPK戦に突入し、結局イタリアが勝った。
 24年ぶりとのことだ。

 試合を見届けてから、トラックに移動する。
 久保田君の私物をおろし、松本さんと乗り込み、五反田へ向かう。