うそ

ずいぶん前、友人の結婚式の二次会で、新婦の友達の女の子としゃべっていた。
初対面だった。
酔っ払ってトチ狂ってしまった俺は、当時ちょっとした社会問題となっていた某ブラック企業の元社員であると身分を偽り、うそのマシンガントークをかましてしまった。
その女の子はすっかり信じ込んでしまい、その後しばらく経ってからも、

「XXXの塚本さん、大丈夫ですか?」

と友人に尋ねていたという。

彼女についたうそはこんな感じ。

「新人研修は朝5時に新宿駅の西口集合なんです。バスに乗ってすぐ、安眠マスクとヘッドフォンつけられて、どこに行くのかわかんなくなって、着いたらいきなり山奥なんです。で、地図とカロリーメイト渡されて、研修センターまで歩いて行くんです。山、二つ越えるんですよ」
「まるでオウムみたいですね」
「ですよね。で、研修センター着いたら、グラウンドみたいなところでみんな整列して、人事部長が挨拶するんですけど、部長が登場する時、キヤノン砲を鳴らすんです」
「なぜ?」
「気合い入ってるか? っていうことをニュアンスで出したいらしいんですけど。カロリーメイト一個で7時間くらいかけて山二つ越えてますから、何人か倒れましたね」

適当に笑いながら聞いてくれるかと思っていたら、彼女のまなざしは真剣そのものだったので、今さらうそですとは言い出せず、二次会が終わるまでうそで塗り固めてしまった。

それに、真剣に話を聞いてもらっていると、なんだか、自分がすごくモテているかのように居心地よく、つい、ずっとこのままでいたい、などと思ってしまったのだ。
電話番号とか聞いたりしていれば、次の打順でランナーを二塁に送って、外野フライでも1点が狙えるケースだった。
だが、トークの入口がうそである。
得点に結びつけるどころではない。
引き分けに持ち込むのが精一杯だ。

式の翌日、パチンコに行って、1500円で5万円勝った。
その金でPlayStationを買い、幻想水滸伝2を毎日16時間やった。
ダメだなおれ、と思いながらやっていた。