駆け込み寺

7時半起き。
7時間以上寝て、休息は十分だった。
朝飯にキャベツサラダ、さばの水煮、唐揚げ、ヨーグルト食べる。

うがいをした時、声が裏返っていた。
試しに喋ってみる。
声は昨日より掠れていた。
起きたばかりの時、声は出ないものだが、昨日や一昨日と比較しても出ていないのは明らかだった。

「おはようございます」
鏡の自分に言ってみたら、故・橘家円蔵の下手くそな物まねみたいな声が出た。

仕事を休むことにする。
幸い、かつかつの作業は抱えていない。

12時までは横になって休んだ。
声嗄れは1日では治らないが、2日で治ることが、経験上多い。
だが今は本番中で、喉を休めることができるのは、本番が終わってから翌日の本番が始まるまでの22時間だ。

その間ずっと寝ていられれば、2日に等しい休息を喉に与えられるかもしれないが、それは賭けだ。

昨日予約した耳鼻科はキャンセルし、有楽町の東商ビル診療所をネットで予約する。
3時半があいていた。
「役者の駆け込み寺」と言われる耳鼻咽喉科で、20年以上前、養成所にいた時から知っていたが、診療してもらうのは今回が初めてだ。

1時半に家を出て、丸の内線で銀座へ。
ソニービル6階の「あるでん亭」でランチのパスタ食べる。

歩いて有楽町へ。
3時20分に、東商ビル診療所到着。

保険証を出し、初診者カードに記入し、タッチパッドでより詳しい症状を入力し、先生に見てもらった。
声帯の写真を撮ってもらったが、
「ポリープもできていないし、どうして声が出ないのかなあ」
と、先生も首をかしげていた。
ただ、声帯が閉じきらず、空気が漏れてしまうのは確かだった。

「本番はいつまでですか」
先生に聞かれた。
「日曜までです」
「では、ちょっと強めの注射を打ちます。今日は高い音は難しいかもしれませんけど。明日と明後日用に同じ薬を出します。いい舞台にして下さい。それから消炎剤処方しますから、終わってからはゆっくり治して下さい」

ありがたいお言葉だった。

注射は2分かけてゆっくりしてもらい、止血のため5分待った。
それから診察費を払い、隣の薬局で処方箋を渡して薬をもらった。
4時過ぎだった。

5時前に劇場入り。
注射の効果は徐々に出始めていて、ちょっと発声をしても声は割れなくなっていた。

だが、本調子でないことは確かだ。
喉は消耗品と思って、使いどころを間違えずに本番に臨まないといけない。

7時開演。
稽古の時と同じ感じで声が出た。
だが、声質はハスキーで、1幕終わりからは掠れ気味になった。
それでも初日よりはマシになっていたと思う。

普段、声なんて出て当たり前と思ってやっていると、別のことに意識を奪われて芝居が雑になることがある。
だが、声がでない状態を体験すると、声が出ることのありがたみを味わいつつ芝居に臨める。

ラストの、まくし立てるところが終わると、さすがに声はカッサカッサになった。
ただ、昨日みたいに割れなかった。

コンドウくん、お連れと一緒に来てくれた。
のど飴と、どら焼き、和菓子を差し入れにもらった。

坂田さんからラストシーンのダメ出し。
深いところに到達していない。
「息子への愛情に気づく」
とも言われた。
稽古期間中、息子への愛情という言葉は出てこなかった。
ということは、それは核心であり、オレは入り口にいるのだ。
そう思って、明日やるのだ。

劇場を出て、シェーキーズへ。
見に来てくれた、清水榊原と合流。

「いつもの塚本は、自分とこで役者やってる時、他の役者を見てるっつーか、そういう視線を感じるのね」榊原が言った。「でも今回は100パーセント役者に徹して、そういうのを楽しんでるのがわかったよ」
清水は、オレが23才の時に出た先輩の劇団の芝居を見ているという。
お二人とも、本当に長らく見て戴いて、どう感謝したらいいものやら。

11時に店を出る。

11時半に新高円寺へ。
本屋に、ぷらっと入る。
「CROSSBEAT増補改訂版 デビッド・ボウイ」を衝動買いする。
豊富な写真と活字にやられた。

ゆっくり風呂に入り、3時就寝。