稽古連絡用のメーリングリストを作った。
便利な世の中になったものだ。
「いい世の中」とは決して同義ではないが。
世の中にある色々な<もの>や<こと>が進歩して便利になるスピードはあまりにも速く、我々からリアクションを奪っている。
だから、例えば地下鉄に乗っていて、溜池山王から赤坂見附の間のトンネルでパラパラ漫画風の広告が点灯しているのを見ても、
「へえ」
と思うだけである。
20年前ならもっと驚いていた。
30年前ならもっとだろう。
驚くことへの純朴さは、変なブームを呼んだりもした。
純朴さは時々訳のわからない化学反応を起こす。
ダッコちゃんブームとか。フラフープブームとか。
子供の頃に、バンバンボールが流行った。
大きい卓球のラケットの真ん中に40センチくらいのゴムひもがついていて、その先にはボールがある。
ラケットでボールを叩くと、ゴムひもに引っ張られ、バスケのドリブルをしているみたいになる。
ただそれだけ。
もう少し上の世代の人は、アメリカンクラッカーブームに直撃されている。
あれも、何が楽しいのか。
カメラ付き携帯も、考えてみればすごいものだ。
未来のスパイが持つグッズみたいだし。
当たり前のように皆それを使っているが、発売と使用の間に<驚き>はない。
あるのかも知れないが、反応の大きさは、それなりだろう。
6年前からDDIポケットを利用しており、音質がいいものだから、未だにPHSユーザーだ。
DDIの前に半年だけアステルを使っている時期があったが、料金滞納で契約を解除されてしまった。
今思うと、それで良かった。
もしもそのままアステルを使っていたら、途中のパワーアステルを経て、今頃はきっと携帯のユーザーだろう。
auとか。
夕方実家へ。
うなぎと野菜炒めを食べてから、部屋の本棚を整理した。
本棚には昔買った漫画が詰まっている。
その中に石渡治の「B.B」がある。
何の気なしに1巻から読むと、止まらなくなってしまった。
この漫画はまったくとんでもない話である。
横須賀の高校生高樹翎がボクシングと出会い、宿命のライバル森山仁を倒すため、『10cmの爆弾』というパンチを身につけるが、戦いを邪魔する高校生チャンピオンを殴り殺してしまう。
警察の追っ手を逃れ、恋人の小雪を日本に置いたまま貨物船でアメリカへ逃げる翎。お別れセックスで小雪は一発妊娠。その後高校中退からシングルマザーというコースをたどり、翎の帰りをひたすら待つことになる。
アメリカに渡った翎は、身長4メートルくらいの黒人コングと戦ったりして、マフィアの仕切る裏ボクシングで全米を制覇する。しかし最後の相手がゴッドファーザーの孫息子だったので、今度はマフィアから逃げるため、傭兵部隊スリーピングシープに入る。
市民権を手に入れるため、翎は世界中のあちこちで起きている紛争に傭兵として参加するが、アフリカの小国ビアンギに幽閉された穀物王ガーギルを救助するミッションでソ連のコマンド部隊にやられ、記憶喪失になってしまう。
洗脳を受け、特殊部隊の一員アレクセイ・ポリャンスキーにされてしまう翎。しかし、大規模な戦闘の末スリーピングシープによって助けられ、記憶も取り戻し、ガーギルの力で市民権も得て、アメリカ人としてようやく日の当たる世界に出る。
だが、派手なパフォーマンスで世界タイトルを奪取し、ようやく日本に帰国すると、前の日に電話で話した恋人の小雪はトラックにひかれて死んでいた。
翎、ショックで酒びたり。
さらに、傭兵時代に受けた傷が頸椎の微妙なところを傷つけていて、ボクシング生命もピンチ。
にもかかわらず翎は立ち直り、世界三大タイトルへの挑戦を続け、ライバル森山仁との戦いにこぎ着ける。
ちなみに森山はその頃別の階級で世界三大タイトルのチャンピオンになっており、妹はアイドル歌手になっている。
二人はその戦いのためだけに新たな世界タイトルを作り、莫大な予算をかけて世界中に中継する。
試合は野外。途中から雷ゴロゴロ雨ザーザー。
世界中で見ている人々は、テレビやラジオで見たり聞いたりして、感動して戦争をやめたり、見えなかった目が見えるようになったり、ちゃんと働く気になったりする。
最終ラウンド、森山の『神の拳』は、翎の頸椎に入り込んでいた爆弾の破片を、パンチの衝撃で首の後ろから出すことに成功。その瞬間、麻痺していた翎の神経は復活。激痛。
最後の殴り合いを経て、翎は森山に倒されるが、森山も精根尽き果てている。
二人はそれから数年間眠りっぱなしになる。
そして、翎の娘(小雪とのお別れセックスで出来た子供)が小学生にあがった頃に、二人とも起きて、海岸に立っているところでエンドマーク。エンドマークの背景は、地球。
ぜひ、実写でやって欲しい。