悲しみの表現

GW前最後の仕事。
今年は10連休とることにした。
そんなに続けて休んだら、仕事のことを忘れてしまいそうだが、明日から稽古なのでその期間を台本書きなどに使いかい。
よって、休暇にはほど遠い日々になりそう。

定時にあがり、御徒町へ。
黒田さんのピザ屋にて、浅香と晩飯を一緒に食べる。
去年の脳出血から半年が経ち、健康的な食生活を続けているのに、人間ドックでコレステロール値の警告を受けたという。
体重の減りは鈍っていたとのこと。

それから、入院した頃から急に近視になり、遠くが見えないことに苦労しているとのこと。
老眼ではなく近視というのが不思議だ。

黒田さん、学生時代にやったテント芝居の話をする。
「オーディションで、こいつは天才だと思った」
後輩のふかやんのことだった。
「悲しみを表現してくれって言ったのよ。そしたらふかやん、目をつむってじっとするわけ。そこから、すごい悲しみが伝わってくるんだわ」
「でもふかやん、出ませんでしたよね」と浅香。
「ホントに迷ったんだけど、オレそのままふかやんの演技見ていたくて、このままいったらどうなるんだろうと思って止めなかったのよ。そしたらふかやん、急に目を開けて言ったの。『すいません、泣けませんでした』で、オレは椅子からずるっとこけて」
泣こうとして、悲しい気持ちを集めていたが、結局泣けずにふかやんは謝った。
だが、それまでの芝居は、胸を打つような悲しみに満ちていたということだ。
「ホント、あのふかやんの芝居は、オレが見た劇団漠の女優の芝居で、ベストだったよ」

10時まで色々な話をする。
黒田さんは、お会計からどうもワイン数杯分はおまけしてもらったようで、ひとりぐびぐび飲んでいたオレはなんとも心苦しかった。

新御徒町で浅香と別れ、11時帰宅。
明日の稽古のことをぼんやり思う。
いつもなら、何らかのストレスを感じているのだが、今回はそれがない。
どこか穏やかな気分でいる。不思議だ。