稽古後のラーメン屋探し

 「ライトニング」読み続ける。
 D・R・クーンツの本は初めて読むが、拍子抜けするくらいエンターテイメントに徹していて読みやすい。
 あっという間に300ページを読み終えてしまった。

 夕方、六本木から稽古場に向かう。
 メールにて今日の稽古場を知る。
 なんと小金井の貫井北町。
 駅から歩いて30分の稽古場である。
 武蔵小金井に着いたのが6時50分。すぐにバスに乗り、7時を少し回ったくらいに稽古場に着いた。

 加奈ちゃんがまじまじと顔を覗き込んできた。
 「ドカさん体調悪いんですってね。大丈夫ですか?」
 「昨日たっぷり休養とったから大丈夫だよ」
 本当は昼のうちに休養を取りすぎて夜眠れなかったのだが。

 照明の村上来る。決まっているきっかけを中心に稽古。
 アップの時間もなくいきなりだったが、今回に限ってはこうしたぶっつけ本番の方がテンションを高められる。
 役柄的に「待つ」ことが多いからだろう。
 待つのは短い方がいい。

 10時ぎりぎりまで稽古。大慌てで片づけをし、解散する。
 9時過ぎくらいに来たオギノ式と飯野と村上は、仕込み等の話し合いのために近くのラーメンショップ「椿」へと消えていった。
 「皆さんも行きませんか」
 と、オギノ式は声をかけてきたのだが、坂が車を運転してくるまで荷物の番をしていなければならず、辞退した。

 荷物番は俺、中山君、東さん。
 中山君はしきりに喉の渇きを訴えていた。
 同時に空腹も訴えていた。
 財布には700円しかないという。
 哀れなのでジュースをおごってやった。

 坂の車が到着し、駅まで送ってもらう前に皆でラーメンを食いに行くことになった。
 「でも、『椿』じゃないところがいいね」
 「『江川亭』にしようか」
 我々はアカシヤ通りから東八道路に抜け、江川亭に向かった。

 しかし、店に近づくにつれて嫌なことを思い出した。
 確かあそこは週の初めが定休日だったのだ。
 それが月曜日だったか火曜日だったかわからないが、思い出したときにはすでに東八道路に抜けてしまっていた。
 「やばいな、もしかしたら休みかもしれないよ」
 俺が訳を話すと、最近公然と俺に反旗を翻すようになった中山君が、
 「もし店が休みだったらドカさんのせいですよ」
 と、下克上発言をかました。
 「何でだよ」
 「だって、ドカさんが『江川亭』にしようって言ったんじゃないですか」

 果たして江川亭は休みであった。
 無力感に打ちひしがれる一同。
 しかし俺はまだ望みを捨ててなかった。
 「坂、連雀通り沿いに横浜ラーメンのうまい店があるよ。車なら10分もかからない。そこもこってりラーメンだから、我々の希望を果てしなく満たしてくれるに違いない」
 坂はハンドルを握り直して言った。
 「そうですね。せっかくここまで来てラーメン食わないのも、悔しいですね」
 東さんも同意見のようだった。

 「江川亭」のある小金井市前原町から東八道路を東に向かい、野川公園を抜けてから人見街道、天文台通り、連雀通りと車は走る。
 「ユニクロのちょっと先にあるんだよ。『大山家』といってさ、こってり系のラーメンを食わしてくれるんだ。最近ちょっとずつ有名になってきた感じの店だよ」
 「あのファミリーマートの先ですか?」
 「そうそう。確かパーキングがあったはずだから通り過ぎないように気をつけて」
 「なんて名前でしたっけ?」
 「『大山家』だよ」
 「ここですよね」
 明かりの消えた『大山家』がそこに建っていた。

 「畜生! なんでだよ!」
 「2軒続けて休みだなんて…」
 「もうこうなったらラーメン食わないと帰れないよ」
 「しかし、どこに行けば…」
 「『椿』に戻るか?」
 「それも馬鹿らしいだろう」
 「こうなったら吉祥寺まで行っちゃいましょう!」
 「吉祥寺!」
 「そうだ、吉祥寺だ。俺たちには吉祥寺しかない!」
 「武蔵野が誇る不夜城だ!」
 「負けたくないもんな!」
 「ああ、なんだかわからないけど負けるもんか!」

 まるで、ようやくたどり着いた天竺が実は幻だったという、堺正章主演の「西遊記」のような展開である。
 パート2からは猪八戒役が西田敏之から左とん平になったが、幸いなことに吉祥寺に着いた時にも中山君が阿部君になっていたりしなかったのでほっとした。

 「ここが吉祥寺だよ」
 「スゲー!」
 「ちょー都会っすね! ちょー都会っすね!」
 「早く降りてみようぜ!」
 伊勢丹前に車を止め、我々は「ぶぶか」に向かった。
 全員、こってり系のラーメンを食わないことには、収まりがつかなかったのである。
 そういう意味では「ぶぶか」はちょうど良い。
 我々はエレガントに、まるで今の今までラーメンのことなんて考えてもいなかったけどたまたま通りかかったらいい匂いがしてきてちょうど小腹も空いていることだしちょっと一杯食べていこうか、くらいなさりげなさを装おうとしたが、無駄だった。
 手は小刻みにふるえ、目は充血し、頬は締まりなくゆるみ、なんだか食い物方向にとてもスケベな4人組になってしまった。

 至福の時が過ぎ店を出た我々は、風俗で追加料金ナシなのに期待以上のサービスを受けることができたみたいな気分で、なぜか互いに目を合わせず照れ笑いをした。
 「良かったよな」
 「ああ、良かった」
 「また来ような」
 「ああ、きっとな」
 「じゃあ、俺たち車だから」
 「そうか。お別れだな」
 「また会えるさ」

 実際、明日も稽古だし、会いたくなくても会うのであるが。