野宿明け千秋楽

 魚らん坂下。
 国道1号線の歩道にあるベンチで一夜を明かした。
 空の明るさで目を覚ました。
 4時半くらいだった。
 のどが渇いていたので自動販売機を探すが、200メートルほど歩かなければならなかった。
 500ミリリットルのスポーツドリンクを飲み、地下鉄の入り口へ。

 白金高輪の駅はずいぶん深いところにあり、階段をいつまでも降り続けなくてはならなかった。
 昨日はこの階段やエスカレーターを上って外に出たわけだが、記憶が全くない。
 ほぼ完全寝ぼけ状態であったので、そこが飯田橋だと思っていたのかもしれない。
 しかしいくら歩いても東西線は見つからず、外に出てみると国道1号。
 さすがに本能だけでは事態を収拾できなくなり、目が覚めたというわけだ。

 ベンチに座り、劇場に行こうかどうしようか考える。
 始発で小金井に帰ることが、とても面倒くさいことのように思えた。
 しかし始発で王子に着いたとして、劇場の鍵が開いているわけもないし、裏口もシャッターが降りているだろう。
 結局また公園のベンチかどこかで時間をつぶすことになるのだ。

 やはり帰るしかないだろうと思い、始発の南北線に乗って飯田橋で乗り換える。
 朝一番の地下鉄だったが連絡は割とスムースに行き、武蔵小金井に着いたのは50分後だった。

 うちに着いてからすぐにシャワーを浴びる。
 体に染みついた「ゲンの悪さ」を洗い落とし、カルピスウォーターを飲んだら気分がすっきりした。
 やはり帰って良かった。

 朝ご飯にそうめんを食い、9時に再び部屋を出る。
 劇場に着いたのが10時頃。
 皆に「俺、昨日は野宿だった」と言ったら、「はあ?」という返事がかえってきた。

 1時開演までの間、隙を見ては仮眠をとって見るが、付け焼き刃だった。

 昼の部が開演。
 今回は音響のオペをやっているのだが、今日はきっかけときっかけの間に訪れる睡魔との戦いが大変だった。
 立ってみたり首の筋肉を回してみたりしながら、なんとかきっかけについて行くといった感じでやり過ごした。
 幸いに役者の方はちゃんと芝居をしており、そのあたりに気を配る必要はなかった。

 昼の会は結婚したばかりの平光くんと加奈ちゃんが来た。
 二人とも沈黙混じりに近づいてきた。
 「アンケートに言いたいことは書きましたので」
 意味深なことを言う。

 三代川も来ていた。
 「仕事は?」
 「やってます」
 「金の心配なくなったでしょ」
 「そうですね」
 「また見に来てよ」
 「ええ。マグネシウムは来ます」

 1時の公演が終わったのが午後2時半。
 お客さんを送り終わったのが3時近く。
 5時の公演まで2時間しかなかったが、残された時間役者は皆昼寝をしていた。
 オギノ君だけがバイクでラーメン屋探しに行っていた。

 開場時間の12分前頃に皆一斉に起きる。
 「うわ、マジ? 体ほぐしてねえよ!」
 ほんとにあっという間だった。

 5時の会も睡魔との戦いだった。
 きっかけが近づくと腕に爪を立て、痛みで眠気をやり過ごした。
 こういう時あると便利なのが、タバスコである。
 問答無用で2、3滴口中にたらすと、あっという間に目が覚める。
 ただし、辛さが引いたら再び眠くなるのだが。

 6時半に終演。
 戸田君が女子トイレの前にたたずんでいた。
 「いや、良かったよ。ちょっとしばらく放心する」
 女子トイレの前で虚空を見つめていた。

 作・演出に専念した今回の公演だったが、役者として出ている時よりもむしろ心のゆとりがなく、終演後の客出しでは所在なさを感じてしまった。
 知り合いの方ともあまり話せなかった。
 まあ、金曜日あたりからはこちらの体調が最悪だったという事情もあるが。
 臼井さんのお母さんからまた文庫本をいただいたのに、挨拶できなかったし。
 ドラマスタジオ時代同期だった太郎が来たことにも気がつかなかった。

 7時前にバラシが始まる。
 何しろ舞台装置が何もないので、あっという間に進む。

 8時前にオギノ君から頼まれ、バイクで渋谷のジャパンレンタカーに行き、車を借りて再び劇場へ。
 明治通りを抜けるのでやはりスムースにはいかず、劇場に戻ったのは9時半近くだった。
 役者はもう打ち上げ会場に向かっており、ロビーも劇場も明かりが消えていた。
 ブースにおいていた荷物を取り、車に戻る。
 玉山さんに挨拶し、車で打ち上げ会場へ。

 歌舞伎町の居酒屋で打ち上げ。
 「かわずおとし」の久保田君がバラシを手伝ってくれ、打ち上げにも来てくれた。
 ジャイアント馬場の写真入りの名刺をもらう。

 楽日に見に来てくれた神田さんが打ち上げに顔を出す。
 「少し痩せた?」
 「いえ、太りましたよ」

 途中、押入団の搬出途中と思われるアサカが挨拶に来た。
 「みなさんお疲れ様でした。それから押入展に来てくださいましてありがとうございました」
 それだけを言うために来たらしく、駆けつけ一杯もなく帰っていった。搬出は大変である。

 2次会はカラオケになるかと思ったが、つぼ八での飲みになった。
 松井智美、健ちゃん、家城君とで猥談に花が咲く。
 戦犯は松井。
 「山ちゃん、男紹介してくれ!」
 何度も何度も叫んでいた。

 2時過ぎ頃、ダウン。
 そのまま始発までダウンかと思ったのだが、3次会のカラオケが待っていた。
 歌う元気など残ってないと思っていたが、何曲か歌えた。

 5時過ぎに辞去する。
 本当はオギノ君が運転する搬出用の車で一緒に小金井まで来る予定だったのだが、なんと恐るべきことに9時から仕事なのだ。
 始発でうちに帰って服を着替えたりしなければいけなかったのだ。
 皆に挨拶をする。
 マミちゃんが一人出迎えに廊下へ出てきた。
 「今回はほんとに楽しかったです」
 「また出てね」
 「はい」
 エレベーターを待つ間、マミちゃんは部屋の前で見送っていた。
 なんだかどこかの島にでも旅立つ男のような気分になった。

 そして外は早朝だ。
 暑かった。
 うちに帰ってシャワーを浴びたり着替えたり色々するために、新宿駅に向かった。

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