11時劇場入り。
キャリーカートを持って行く。
集合してから昨日の総括をし、準備に入る。
撮影のカメラマンさんに渡すSDカード、デジカメに使用しているものを流用する予定だった。
中身を空にしようとキャリーカートをあけると、デジカメが入っていなかった。
持ってくるのを忘れたと思い、知恵ちゃんの自転車を借り椎名町へ。
風がとても強かった。
椎名町のスーパー、電気屋をのぞく。
16GBのものしかなかった。
高田馬場にドンキホーテがあったのを思い出し、新目白通りを東へ走る。
4000円ちょっとで32GBのSDを買う。
劇場に戻り、キャリーカートのサイドポケットをあける。
忘れたと思っていたデジカメが入っていた。
強風の中を小一時間自転車をこぎまくったのは何だったのか。
焦らず落ち着いて行動できていない自分への憤りに、めまいがした。
怒れば怒るほど、落ち着きから遠ざっていく。
弁当を買ってきて、外のベンチで食べる。
深呼吸をして気分を落ち着かせる。
考えてみれば、稽古開始から千秋楽の今日に至るまで、本当に落ち着いていたことは少なかった。
常に神経をピリピリさせていた。
個人的に色々な理由がある。
とにかく今回は、ピリピリした状態で自分に鞭打ちながら作る宿命にあるのだと思っている。
だからSDメモリーカードのことや、仕込み二日目の事故のことも、どこか当たり前のように受け止めている。
「そういう公演」というのが、何回かに一度はある。
今回がそれだ。
それはそれとして、ピリピリするのは仕方ない。
神経をなだめ、落ち着くためには、多少時間がいる。
スイッチを簡単にオフにできるわけはない。
カメラマンさんにSDカードを渡す。
前回依頼した時はDVテープで受け渡ししてもらったが、1年ちょっとで変わったものだ。
最終集合後、本番を待つ。
しばらく外で深呼吸を繰り返し、楽屋の面々に挨拶をする。
舞台裏所定位置につこうとすると、先に階段で待機していたなべさんに、
「今日は遅いですね」
と言われた。
2時開演。
前半、ナベさんが珍しくセリフを抜かした以外は、大きなトラブルはなかった。
7ステージかけて芝居の角が取れ、空気を醸し出す芝居になってきた。
知恵ちゃんと金ちゃんの喉、心配だったが無事最後まで持ちこたえた。
最後の芝居が2時間かけて終わっていった。
感慨のようなものはなく、過ぎ去っていくものを淡々と受け流すような気分だった。
終演後、メイクをしたままATMに走って、カメラマンさんに支払いをする。
走り回っていたため、お客さんに挨拶がほとんどできなかった。
バラシに入る。
山田さんからチケット売り上げをもらい、ATMに預け、お金その他の計算をする。
楽屋やロビーは人が通るので、近くに作業が出来るコーヒーショップがないか探したが、手頃な場所はなかった。
外はとても寒かった。
寒波が北日本を覆っている影響らしい。
結局、楽屋で残作業をする。
大入り袋に名前を書き、領収書の整理をし、支払いのお金を確認する。
バラシは、田中さんがヘルプの方々を連れてきてくれたこともあり、予定よりも早く進んだ。
打ち上げ場所は毎日通っていた『丸八屋』だった。
開始時間が10時だったが、それより2時間は早く終わりそうだった。
8時過ぎにバラシ終了。
時間より早くあけてもらえないか交渉しに『丸八屋』へ行ってみたが、店は真っ暗だった。
日曜日は定休日なのだが、我々のため特別に夜の10時から貸し切りをさせてもらっていたのだ。
山田さんからチケットシステムについての意見をもらう。
システムが問題ではなく、そのシステムのままにしておいたことが問題だった。
宮崎さんからは、演出助手の必要性について意見をもらう。
今回のように、自分も結構出ている芝居の場合、全体をざっと見ることが本番が近づくにつれ少なくなってしまう。
次回の本公演は、演出助手を本気で探してみようと思う。
9時前に再度お店の前に行くと、厨房の奥に明かりがついていた。
ノックをすると親父さんが窓のところにやってきた。
事情を話すと、シャッターを開けてくれるとのこと。
銭湯に行ったり、荷物を置きに家に戻っている面々にメールをし、劇場を退出する。
全員揃ってはいなかったが、集まった面々でゆっくり飲み始める。
11時前に全員揃った。
少し間をおいてから、大入り袋を配る。
言葉にすると嘘くさくなるのに、言葉にしないわけにはいかない時間だ。
悩まない人がいない公演だったと思う。
みんな役をどうしようか悩んでおり、
(これで大丈夫)
と思っている役者はいなかったと思う。
座組みの雰囲気はとても良かった。
全員が率先して自主練を繰り返し、場面をどう作るか相談していた。
そうしろと声を大にして言ったわけじゃない。
邪魔をしなかっただけだ。
本来、役者はみんな、そういう風に作りたいはずだと思う。
知恵ちゃんは、前作『顔と名前』と比べ、自分で作り出した芝居が確実に増えた。
場面のイメージと人物の感情を映像的に解釈し、演技に反映させていた。
芹川は、心身ともに打ち込みつつ、兜森君や平木君に意見をしていた。
自主練量は一番多かったのではないか。
次回の客演にどう生かされるだろう。
色々な感想があるが、言葉にするとみみっちい評論のようなものになってしまいそうな気もする。
今回の公演では、言葉ではない別のもので芝居を作ろうとしていた。
うまく伝えるすべをまだ知らない。
個人的な事情を稽古場に持ち込まないよう気をつけた。
毎日、苦行をしているようなものだった。
時々、あふれ出す感情が、人を突き刺す言葉になってほとばしりそうになった。
そういう言葉は、めぐりめぐって結局は自分の背中に突き刺さる。
身をもって知る公演だった。
明け方5時に打ちあげは終了。
外はもの凄く寒かった。
一本締めをし、下落合までカートを引いて歩く。
紙の廃棄物をめいっぱい積んでいたため、途中でカートの足が一つ壊れた。
大したことじゃない。
今まで起きたことに比べれば、全然大したことじゃない。
6時帰宅。
目覚ましをセットしないで、自分を眠るまま放っておくように、寝た。