幼い人達という呼び方

 朝7時に1号と2号が部屋に入ってきて、ピアノの鍵盤をがんがん叩き始めた。
 呆然として起きあがると、2号が、
 「やったー、起きた!」
 と言った。

 朝食のおかずが何もなかったので、ねぎとベーコンを使いチャーハンを炒めた。
 1号と2号はブロックを部屋中にぶちまけている。

 このまま起きようかと思ったが、昨日のジョギングの疲れがたまっていたせいか、心身共にだるかった。
 再び布団の中に入る。

 気がつくと昼の1時を過ぎていた。
 その間、1号達はザリガニ釣りにでかけたらしい。
 しかし収穫はなく、失意のうちに妹の家に帰っていった。

 ドーナツとコーヒーを昼飯代わりに食してから実家を出る。
 途中古本屋で、渡辺一枝『気が向いたら風になって』購入。
 保母の仕事や子育てを通じて作ってきた人形にまつわる話が中心。
 保育園の子供達のことを、<子供>ではなく<幼い人たち>と書いている。
 根底に、幼い人たちに対する尊敬があるのだな。
 甥のことを<1号>などとメカのように呼んでいた自分が恥ずかしかった。

 図書館に行き、予約していた本を借りる。
 ケストナーの『飛ぶ教室』や、福武文庫の児童文学など。

 夕方になると強い風が吹き、ジョギングどころではなくなってきた。
 カレーを作って食べる。

 『気が向いたら風になって』読了。
 一枝さんの作った人形写真が載っている。
 撮影は夫の椎名誠。

 対談集『ホネのような話』で椎名誠は一枝さんのことに触れている。
 若い頃にした壮絶な夫婦げんかの話が面白い。
 逆上した椎名誠が一枝さんを柔道で投げ飛ばしてしまい、我に返って
 「おい、大丈夫か!」
 と、のびた妻を背負って帰ることもあったという。

 しかし、基本的には椎名誠の方が奥さんに惚れて一緒になったんじゃないかと思う。
 『全日本食えばわかる図鑑』所収のエッセイにこういうのがある。

 「あなたは電気釜でゴハンを炊くのですか?」
 と、ある日わたくしは聞いた。
 「いいえ、電気釜は使いません。あれはきらいなんですよ」
 わたくしのムネは高鳴った。
 「なんでご飯を炊くのですか」
 「釜ですよ。ふつうの小さな釜です!」
 ズガン! とわたくしの脳裏に電気が走った。
 そして二ヶ月後にわたくしはその女性に求婚した。

 自分のことを「わたくし」と言ってしまうところがなんともおかしい。