中日と横浜の胴上げ

 中日が優勝した。
 延長12回の表に6点を入れ、文句なく試合を決めた。
 落合監督が泣いていた。
 これには驚いた。

 オレ竜のフレーズは、必ずしもいい意味で語られるわけではない。
 取材する記者の質問を、
 「お前らにはわからんよ」
 とにべもなくはねつける傲岸不遜な態度を揶揄するニュアンスも含まれている。

 バッティング技術の研鑽が超人的な域にまで達した選手は、そうした態度をとることが多い。
 広島の前田とか。
 もちろんイチローも。
 長嶋さんは、己の達した境地を無理矢理言葉にしようとして、わけのわからない説明をしてしまう。
 王さんは例外で、わからない人にもわかるようにレベルを落として語ってくれるが、その親切さは監督を始めた頃、マスコミやアンチファンにつけ込まれる隙の一つとなっていた。

 そういえば巨人の4番を打つ人は、説明をいとわない人が多い。
 原とか、松井とか。

 現役時代の落合は、発言の責任はすべてバットで解決すればよかった。
 実際、そうしてきた。
 監督になってからは、自分のバットで責任をとれなくなった。
 いい指揮をとろうが、実際にバットを振りボールを投げるのは選手である。

 選手が失敗しても決して悪口を言わない姿勢を、落合監督は就任以来崩していない。
 負けるとその責任は全て、自分にかかってくる。
 今年の中日は夏場に独走態勢を固めた。
 ところが9月からの阪神が驚異的な追い上げを見せた。
 マスコミの報道は、阪神の優勝を密かに後押しするかのようだった。
 もし本当に阪神が逆転優勝していたら、落合監督の立場はどうなっていただろう。
 10ゲーム差をひっくり返されて優勝を逃した戦犯。
 その責を受け、退任していたとしても不思議ではない。

 9月から10月にかけ、落合監督は冷静なコメントを発し続けた。
 しかし、その内面はおそらく、経験したことのない不安とプレッシャーで押しつぶされそうになっていたのだろう。
 本当に辛いのは、それをおくびにも出せないということだ。
 そして、出さないということだ。
 それがオレ竜の真髄だ。

 落合監督の涙を見て、なにやら胸のつかえがおりたような気がする人は多かったに違いない。
 (落合さんも、やはり人の子だ)
 一昨年優勝した時よりも、スポーツ紙のサイトやニュース番組での扱いが暖かいようだ。
 ともあれ、良かった。
 一昨年の日本シリーズは中日をまったく応援できなかったが、今年はしっかり応援したい。

 優勝した中日の落合監督は今日胴上げされたが、横浜の牛島監督は昨日胴上げされた。
 横浜はほぼ最下位が確定している。
 にもかかわらず、本拠地の最終戦で選手から胴上げされた。
 スタンドからは牛島コールまで起こったという。
 牛島監督がいかに選手から信頼されてきたか。
 その証ではないか。
 今年のベイスターズは故障者も多く、開幕から連敗が続き、不運なシーズンだったと思う。
 ただ、選手のやる気がないための最下位ではなく、来年こそは上位をねらう虎視眈々とした姿勢は、ファンから評価されていたと思う。
 牛島さんはしかし、成績不振の責任をとり、辞任会見をした。
 もったいない。