一日だけの実家正月

6時50分起き。
着替えて、実家マンションの最上階へ行く。
階段から屋上に上がれるか確かめる。
入口は錠がかかっていたが、階段の手すりをまたぎ越し、外側から回り込めば、屋上に出ることは可能に思えた。
実際、手すりをまたぎ越してみたのだが、屋上のサクを乗り越えるにあたり、思い切り身をさらすことがわかり、もしも何かの間違いで落下したら2月公演が打てなくなると思い、断念した。

少し離れたところにあるマンションに移動し、8階までエレベーターで上ってみた。
階段を降り、踊り場から外を見ると、丁度東の方角を見ることが出来たので、初日の出の写真を撮った。
雲に隠れていて、太陽の輪郭はぼやけていた。

家に帰り、ベランダに出てみる。
何のことはない、実家のベランダこそ、初日の出を拝むのに最適なポジションにあった。
無理して屋上に出なくて良かった。

少し寝直して、9時に起きる。
おせちを食べ、ビールを飲む。

「ローストビーフを作ったのよ」
と母。
テレビで作り方を放送していたやり方で作ったらしい。
ちゃんと中心がピンク色になっていた。
美味しかった。
かなりいい肉を使っていたようだ。

どうしようもないテレビ番組を見るのが苦痛だったのだが、新聞のテレビ欄を見ると、『徹子の部屋』の名場面集をやっていたので、チャンネルを変えてもらった。
美空ひばり、渥美清、丹波哲郎、嵐寛寿郎、高倉健、吉永小百合、森繁久彌、長谷川一夫。
そうそうたる面々。

渥美さんや森繁さんや長谷川一夫さんは、話をしながら自分の体験したことを、身振りと演技を交えて「芝居」の体裁で語っていた。
これが、たまらなく面白かった。
長谷川一夫の流し目はどのように作られるのか、本人の解説付きでやってもらうなんて、値段がつけられないと思う。

大変いい気分になった。

午後、本を読む為に近くのドトールへ。
実家だとどうしても、読むのに適した場所がない。
今年は自分の部屋を整理してみようか。

夕方6時まで読書して帰宅。
母が、
「晩ご飯、何もないのよ」
と言い出す。
おせち用の煮染めと、お雑煮があるらしかったが、その雑煮の汁は、自分が大晦日に作ったやつだ。
「そいじゃあ、何か適当に作っていい?」
「あら? あんた作ってくれるの? うれしー!」
母は喜んで米を炊き始めた。

冷凍庫にシーフードの冷凍食品があった。
野菜のストッカーにジャガイモがあった。
海の幸カレーというカレーのルームあった。
カレーを作ることに。

雑煮用の汁は残り少なくなったので、かまぼことネギを刻んで入れて、卵とじにした。

カレーを食べながら、健康の話になる。
父は、結婚する前に糖尿病寸前になっていたそうだ。
「酒飲んで、メシ食わなかったからな」
塩分の高いつまみと、酒ばかりの生活をしていたら、血液はドロドロだ。

会社を定年になってすぐ、父は通風になった。
以来、冷蔵庫にビールがストックされなくなった。
母の管理によるものらしい。
仕事をしていた頃の父は、やたらに麦茶を飲んでいた。
休日に昼寝をしている時、
「おーい」
と呼ぶ声が聞こえ、父の寝室に行くと、
「麦茶持ってきてくれ」
と頼まれることがよくあった。

あれは、水分摂取という意味で、いいことだったのだと思う。
仕事を辞めてから、麦茶を飲む回数も減ったようだ。

「Amazonでミネラルウォーター注文すれば、箱買いが楽だよ」
「どうやるんだ?」
「この前、アカウントは取っておいたから、試しに注文してみようか」

父のパソコンを開き、Amazonのページに移る。
「水」で検索して、適当なミネラルウォーターを注文する。
「明日届く予定だから。次回以降は注文ボタン押すだけで大丈夫。支払いはクレジットカードにしてある」

電位治療器のことを母に聞いた。
「今、使ってるの?」
「毎日使ってるわよ」
「あのさ、オークションに出せば、たぶん今でも結構いい値で売れると思うんだけど」
「え! じゃあ売って。もう十分元はとったから」

相場を調べると、10万から20万の範囲で落札されているようだった。

「じゃあ、20万で売ってちょうだい」
母は言う。
「オークションなんだから、売値は決められないでしょ。まずは、10万くらいで出品して様子を見て、あとは成り行き任せじゃないかな」

オークションに出品するための写真をデジカメで撮る。
どうなるかわからないが、需要は今でもあるらしいので、出品して気長に待ってみようと思う。

風呂に入ってから、11時過ぎに実家を出る。
「色々ありがとな」
と父に言われる。
年越しそうめんのつゆを作り、カレーを作り、Amazonとオークションの設定をしに実家に帰る正月だった。

12時半帰宅。