やっぱりアナログ盤がいい

8時起き。

『波のアラベスク』を練習する。譜読みは最後の一段手前まできた。

10時、稽古場へ。AKIRAセーターを着て行った。『波のアラベスク』の進み具合を褒められ、セーターも褒められる。

ドラッグストアで食パンを買って帰宅。トーストにして、チキンハンバーグ、ソーセージとチーズ、ツナマヨネーズをのせて食べた。

午後、眠気を覚え、3時過ぎまで昼寝。

5時に家を出る。

永福町の『大勝軒』へ。誰も並んでいなかったのですんなり入店する。
チャーシュー麺と生卵を頼んだ。スープの表面を覆う油膜が昔に比べて薄くなったような気がした。

食べ終わって店を出ると、10人くらいの行列ができていた。シーバス釣りでいえば『時合い』だ。オレは時合いを逃すのが上手い。

下北沢へ。

ヴィレッジバンガードをちょっと覗いて、スズナリに向かった。ローソンの前を通る時、そういえばこのローソンは30年くらい前からあるなあと思い、次に、もう少し先にはディスクユニオンがあったっけ、と思った瞬間、ディスクユニオンが目に入り、あるじゃん、とずっこけた。

ディスクユニオンに入った。店の半分以上をアナログ盤が占めていた。客のほとんどがアナログ盤を見ていた。

アナログのシングルレコード棚に、ピンク・フロイドの「シーエミリープレイ」が置いてあり、うおっ! と思って値段を見ると、9万円以上した。そらそうよ。

シンディ・ローパーの “She’s So Unusual” がかかっていた。”Girls Just Want To Have Fun” が全米チャートの上位にランクインしたばかりの頃、シンディ・ローパーはプロモーションのため来日し、『笑っていいとも!』に出演していた。タモリ相手に持ちネタのハリウッドスマイルを披露していたが、観客の反応は(何それ? ていうか誰?)という感じだった。同時期、『ベストヒットUSA』にも出演し、同じスマイルを小林克也と一緒にやっていたが、これは面白かった。後年の名場面集でも放送されていた。

1984年の洋楽は本当に楽しかった。ヒットチャートには様々な種類の音楽がランクインしていた。『ベストヒットUSA』や、ラジオの『アメリカントップ40』で、最新ヒットチャートの曲を聞き、興味を持ったバンドのアルバムは、レコード店に行って、手に取り、眺めた。LPレコード。アナログ盤。

ディスクユニオンでLPレコードを手に取り眺めていると、その頃の記憶が蘇ってきた。LPは鞄に入れることなどできないくらい大きいから、買うと、袋ごと小脇に抱えて歩くしかないが、買ったばかりのレコードを小脇に抱えて町を歩くというのは、なんて素敵なことだったのだろう。

レジ近くの棚にレコードプレーヤーが陳列されていた。買おうかと一瞬思ってしまったが、レコードはほとんど持っていないし、今から収集する覚悟がまだついていない。

6時半、スズナリへ。『初級革命講座飛龍伝』観劇。主演ラサール石井。

学生運動のことを解説するシーンが冒頭にあった。機動隊や学生の衣装をファッションショー風に演出するものだったが、『飛龍伝80』でつかこうへい自身がやった演出ではなかったか。

しかし、それらの演出は余計だと思った。時代劇を見る時に「不思議な髪型ですが、これはちょんまげといいまして…」と解説されるような気分になった。

本編の『初級』は、テキストをわりと忠実に舞台化したものだった。

元活動家の熊田をラサール石井が演じていた。石井さんはこの作品を学生時代に見ていたらしく、それを自分が演じることになった喜びを、宣伝チラシで語っていた。

そのためだろうか、石井さんの演技は戯曲へのリスペクトに満ちていた。台詞に向き合い、役を時代に迎合させたりねじ曲げたりすることなく、取っ組み合って自己と同一化することに集中しているように見えた。

『初級』のテキストだけで上演した方が面白いと思った。世間の人々は『飛龍伝’90』以降の作品しか知らないだろうという思い込みを前提にした追加場面は、かえって公演の魅力を損なっていたと思う。

アンケート用紙と共に挟み込まれていたチラシに、唐十郎『少女仮面』の上演チラシが2枚もあった。別々のカンパニーが同じ時期に偶然上演するらしい。そのうち一つは天野天街が演出だった。そ、それは見たい。

9時過ぎ終演。

永福町のキッチンコートで、割引惣菜とハイボールを買って帰宅。

ふと、小劇場の台詞術はこの二十年でずいぶん変わったのではないかと思った。『初級』の「風邪ばさんざんこじらせっち」で始まる長い長い台詞を言える役者は、とても少なくなっているんじゃないだろうか。ラサール石井さんがこの台詞を喋っているのを今日聞いて、ああ、こういうふうにやらないといけないんだ、と思った。これなんだ、70年代のつか事務所の芝居は、と。