狂乱の夜が明けて

 窓をほんの少し開けて寝たせいか、起きた時のどが痛かった。
 だいぶ暑くなってきたとはいえ、明け方はまだ涼しいのだろう。

 ロシアに勝利した翌日の町は、誰もが目と目を見交わしているように思えた。
 「昨日のアレ見たか?」
 「見た?」
 「見た?」

 六本木は驚喜した群衆で溢れかえり、道頓堀は水に飛び込む者が140人を数えたらしい。
 フーリガン対策の杞憂はともかくとして、日本人がこれほど暴れ回るとは警察サイドも考えていなかっただろう。
 チームがダークホースならサポーターもというわけだ。

 ネット上の掲示板サイトではワールドカップの話題がかしましい。
 稲本のゴールはオフサイドだの、ああだのこうだの。

 昨日のテレビ中継も瞬間視聴率が80%を超えたという。
 そりゃそうだよな。

 しかし人間の欲は際限がないわけで。
 もしかしたら昨日の夜こそが最良の夜だったのかも知れない。
 何が起きても不思議じゃない。

 夕方6時から稽古。
 松井智美、健ちゃん、望月来る。

 男二人のシーンとシーンの説明をやり、あとはほとんどの時間を智美稽古に費やした。
 「演劇に関して、わたし変態なんですよ」
 だそうな。

 変態なのかどうかはともかく、素の状態で彼女ほど挙動が不審な女性も珍しい。
 常に誰かに尾行されているみたいだ。

 娘の家庭教師を誘惑する人妻というキャラクターを演じてもらい、どうすれば「落とせるか」を真剣に議論する。
 相手の警戒心をそらし、いつの間にか懐に入り、視線が絡み合ったら後はゴールを目指すのみというパターン。
 やってみると奥が深い。
 ちなみに餌食となる家庭教師は健ちゃんが演じた。

 9時半に稽古終了。
 脳内のブドウ糖が枯渇し、瞼が重くなるほど疲れた。
 10時半帰宅。
 レバーと野菜の炒め物でご飯を食べる。