エロ本とN君

 ドンキホーテは誘蛾灯みたいな店だ。
 なんとなく面白そうだなと思ってついつい入ってしまうのだが、店内をうろちょろするうちに物欲が冷めてしまい、何も買わずに出て行くことの方が実は多い。
 巨大な駄菓子屋のようなものだ。
 なんとなく寄って、なんとなく買うところ。

 中学の頃、万引きブームがあった。
 コンビニで少年ジャンプやガムを盗むのは序の口で、秋葉原の電気街でチェーンにつながった状態のウォークマンを、切断用ペンチ片手にいただいたり、ジャスコでピストン輸送方式を使って(信じられないことに)CDつきミニコンポを盗む輩もいた。
 死角が多く雑然としているディスカウントショップは格好のターゲットだった。

 友達にSという男がいて、彼はどういうわけか、ディスカウントショップの陳列棚の鍵を持っていた。
 ある土曜日、彼は仲間数人を引き連れて、Yというディスカウントショップに行き、陳列してあるウォークマンを根こそぎいただいてしまった。
 店の損害はおそらく20万円近くにはなっていただろう。

 その後、その店にはいたるところに、
 「万引きをした者は即刻警察に通報します!」
 と筆で書かれた紙が張られるようになった。

 他にも、試着をしてからそのまま帰ろうとしてつかまった者や、おもちゃ屋の裏にあったゲーム機の鍵をあけて大量の50円玉を盗もうとしているところを不良高校生に見つかってその場でカツアゲされる者がいた。

 哀れだったのは勉強がそこそこ出来たN君で、マジメな彼は本屋でエロ本を買うということが恥ずかしくて出来ず、とうとう万引きという非常手段をとってしまった。
 本屋に入り顔を真っ赤にして彼が手にとったのは今はなき「GORO」
 震える手でそれを鞄に入れ、忍び足でレジの前を通ろうとした時、
 「580円です」
 と店員に言われ、腰が抜けるほど驚いたらしい。
 N君は千円札をレジに置くと、お釣りも受け取らずに走り去り、翌日は学校を休んでしまった。

 ちなみにその時のGOROには、水沢アキのセミヌードと、武田久美子の水着写真が載っていた。
 N君を駆り立てたのはどのグラビアなのか。
 周囲の我々は憶測を楽しんだものだ。

 その数年後、武田久美子は貝殻にヒモだけの水着姿で雑誌に登場した。
 90年代に入ると彼女はヘアヌード戦線のフロントを疾走し続けた。
 いつも寸止めだった水沢アキも、90年代後半にはどうにも止まらないほど丸出し状態となってしまった。
 N君、ショックで死んじゃいないだろうか?