滅びの因子

光瀬龍『百億の昼と千億の夜』は、ある超越した存在が、この宇宙を文明の発展と滅びの実験場にしているという設定の、極めてスケールの大きな物語だった。
印象的だったのは、生命体に一定の刺激を与えて進化を促し文明を発展させる過程において、必ず滅びの因子を埋め込んでいるというところ。
プラトンが夢で見るアトランチス滅亡の日は、典型的な場面だった。

最近、滅びの因子ということについてよく考える。
たとえば、パチンコ屋の前を通る時など。

90年代、世の中が不景気になっても、パチンコ業界は拡大を続けていった。
ホールには開店の何時間も前から行列が出来、平日でも満員の店が沢山あった。
2000年の時点ではまだそうだった。
12年経った現在、たまにトイレを借りるためにその辺のパチンコ店に入ると、どの店もガラガラだ。
広くてきれいな店でそうなのだから、狭くて汚い店はもっとひどく、経営難のため知っている店でつぶれたところも多い。
台はキャラクタータイアップのものばかりで、リーチアクションが死ぬほどうざったそうだから、かれこれ10年くらい玉を打っていない。
出玉も少ない。
台がこんな状態では客は寄りつかないだろうし、客が来なければ店は出る台を作ることが出来ないだろうし、出ない店にはますます客は寄りつかない。
一体なぜ、こんなことになってしまったのだろうと思う。

そういえばパチンコ業界が潤っていた頃、パチンコ中毒者も多かった。
借金まみれになったりするのはまだ良い方で、パチンコに夢中になるあまり、真夏の駐車場で子供を車の中に置き去りにして死なせる事件も起こった。
社会問題といってもよかった。

まさかとは思うが、そうした社会問題を解決するために、滅びの因子がパチンコ業界に意図的に埋め込まれたということはないだろうか。
もしそうであるなら、この十年間でそこそこの成果を上げているといえるかもしれない。
今のパチンコで身を持ち崩す人は、たぶん相当少ないと思う。
出玉や確率の問題じゃなく、ギャンブルの持つ本質的な偶然性がなくなっているからだ。

パチンコはまだいいが、音楽業界は大丈夫だろうか。
そもそも、レコードが先にあり、ヒットチャートはそれに追随していただけなのに、いつの間にかヒットチャートありきのレコード作りとなり、レコードがCDに変わってから巨大ビジネスに発展した。
それがこのところ、見る影もない。
CDは売れないというが、本当に売れていない。
巨大ビジネスであった方がいいとは思わないけど、才能のあるミュージシャン志望の若者が、食えないから音楽をやめるということが起こりうる状況ではあると思う。

他にも、プロレスとか、総合格闘技とか、テレビとか、ゲーム業界とか、色々な業界に滅びの因子の影響を感じる。
そんなものが実際にあるとは思っていないが、本当にあるかのように状況が動いていることはあると思う。
とすれば、注意すべきは、どの分岐点でその動きが起こるかだ。
誰かの何気ない思いつきから始まるかもしれないし。

午前午後と仕事をしながら、そうやって考えても仕方ないことを考える。
夕方5時に早退し、シアターグリーンへ。
本日は稽古最終日。

稽古場に着くと、丁度食事休憩の時間だった。
早退する必要はなかったらしい。

近くの「ハーイハニー」へ行き、ハーイハニーセットを食べる。

7時から通し稽古。
下のフロアは劇場なので、大きく飛んだりはねたり出来ない条件だったが、発声は普通にやれた。
金曜にもらった台詞、ようやく覚えられた。

通し後、駄目出し。
明日の仕込みについての説明や、チケット関連の説明など。
その場で解散となる。

エレベーターで下に降り、コンビニで金をおろして再び劇場に戻ると、誰もいなくなっていた。
直後、綾香から電話。
「青龍」で稽古場打ち上げをしているという。

青龍へ行き、飲みの席に加わる。
南さんから、かつて所属していた劇団の話を聞き、大いに驚く。
「そこ、先輩がいるよ」
などなど。

体はまったく疲れていなかったが、気持ちが妙に弛緩しており、頭もよく回らなかった。
こう言う時に飲むと、グダグダ喋ってしまう。

11時半に店を出る。