朝、雄三さんに起こされる。「女将が寝坊して、まさかの朝飯なしです」と言われた。しかし、昨夜はとてもたくさん食べたので、まだお腹は空いていなかった。
雨が降っていた。7時過ぎに宿を出る。小一時間で大島南端のトウシキへ。エントリーポイントは岩がゴツゴツしており、水際でフィンを履いてから、海の中に入るまでの移動が大変だった。
フィンを履いたまま、水深50センチくらいになるところまで進み、そこから先は腹ばいになって進んだ。そっちの方が楽だった。
ウミガメはやはりあちこちにいた。昨日と今日見た中で一番大きいものを見た。
V字型の渓谷、絶壁などを眺めながら泳ぐと、浮遊感を強く感じられた。こうやって泳ぐのが一番好きだと自覚した。
1時間弱でエキジットした。雨は少し小降りになっていたが、外に出るとやはり寒かった。
朝飯を食べるため、いったん宿に戻ることになった。戻ると、部屋入り口に置いていた靴がぐしょ濡れになっていた。
ショップのサンダルを借り、ドライスーツを脱ぎ、部屋でインナーを脱いでデニムと長袖Tシャツとパーカーを着た。
朝飯は、白米と混ぜご飯があった。混ぜご飯を選んだ。おかずは納豆、海苔、生卵、卯の花、焼鮭。納豆と生卵があった。白米にすればよかったと思ったが、時刻が10時前で、昼飯が近かったので、お代わりはせず納豆のみ残し、炊き込みご飯に生卵をかけて食べた。
11時20分、秋の浜に向かった。トウシキが終わった時、今日はこれでおしまいなのかと思っていたが、どっこい、2本はきちっとやるのだ。一瞬、やるの? と弱気になったが、ドライスーツに着替えると再びやる気が出てきた。
秋の浜にはカメラを持っていかなかった。最後は手ぶらで楽しみたかった。
11時過ぎに秋の浜到着。波の様子を見て、誰かが「一昨日、今日はやめようと言ったレベルですよ」と言った。雄三さんは少し考え、「段々収まってくるでしょう」と判断した。
水面にいると流されるため、最初に雄三さんがエントリーし、間を置かずに皆が続いてエントリーし、すぐに潜降することになった。エントリーした時、波のせいかマスクがすこしずれた。
潜降すると、流れは収まった。
昨日よりも広い範囲を回った。水深27メートルくらいまで潜降し、砂地がどこまでも続く場所を漂ったりした。雨のため届く光量が少なく、全体的に薄暗かったが、神秘的だった。去年行った本栖湖を思い出した。
エキジットするため、はしごのところまで着いたが、見上げると、打ち寄せる白波のため、空が見えなかった。雄三さんの指示で、はしごに着いたらフィンを外し、波と波がぶつかり合って、水面が穏やかになるタイミングを見て、はしごを上ることになっていた。
一人上がり、二人上がったので、続こうと思って浮上したが、二人目が波のため足止めを喰らっていた。水深2メートルのあたりで、波が来るたびに体が揺れた。雄三さんに、下に降りるようサインをもらったので、フィンを波に持って行かれないよう気をつけて再び潜降した。底に着くと波の影響はまったくなかった。
少しすると、二人目を上に上げた雄三さんが隣にきて、波の様子を見上げてから、上がる合図をくれたので、一気に上がった。今度は、波の影響をまったく受けずに上がることができた。
マクロを見ている二人が残っていた。雄三さんは二人が来るのを待ち、来てから再び潜降した。二人のフィンを受け取っては上に上がってきてフィンを陸に投げた。しかし、一人がフィンを流されてしまったため、全員エキジットするのにやや時間がかかった。何度も水面と底を往復していた雄三さんは、波に流されてはしごのクランプに引っかけ、ドライスーツを破いてしまい、上がってから「冷てえー!」と悲鳴を上げていた。
時刻は12時前だった。帰りの船が2時半に出るので、残り時間はそれほどなかった。
大急ぎでショップに戻り、機材を洗って干した。タイミングのいいことに、12時を過ぎると雨はやんでいたので、少しの間だけでも機材を干すことができた。
ドライスーツを脱ぎ、着替え、スーツケースに機材をしまった。ドライスーツは90Lのゴミ袋に入れてからしまった。
食堂に行くと、お昼のカツ丼がお弁当容器に入って並んでいた。時間がなかったら船で食べられるようにという配慮だった。しかし、思ったより順調に荷物をまとめられたので、ここで食べることにした。
食べ終わって外に出ると、空は晴れており、暖かくなっていた。今日の大島は強風波浪注意報が出されていた。そんな日に潜ったわけだが、潜行すると流れはそれほどなかった。波よりも流れの有無の方が重要なのだろう。秋の浜でエキジットする時は波に苦戦したが、沖で流されるわけではないのだから、時間をかけさえすれば上がれるはずだ。
2時にショップを出る。岡田港へ。
2時半出船。
本を読もうと思っていると、飲まないかと皆に誘われたので、受けて、缶ビールを買って、40分ほどデッキで飲んだ。
船室に戻ってから、宇野千代『おはん・風の音』の続きを読んだ。
「風の音」は、清吉という婿をもらった、おせんという女が、これまでの人生を語る形式。清吉は馬が好きで、馬を教練しレースに勝たせることに一生懸命だ。レース中、清吉の馬を応援するために肩掛けを投げたお雪という女とデキるが、お雪をよそに囲うのではなく、家に入れてしまう。「おはん」とは逆パターンだが、清吉は「おはん」の加納屋と違って、他に女を作っても、奇妙な人間的魅力がある。
大島から東京行きの船は横浜港に立ち寄る。港から至近の駅は、日本大通り駅だ。徒歩8分だと船内放送が伝えた。となると、もし横浜で降りれば、そこから東横線経由で副都心線の新宿三丁目まで一本だから、おそらく船が竹芝に着く頃には帰宅できる。次に大島へ行った時はそうしてみよう。
7時半過ぎ、船は竹芝に着いた。車で新宿まで送ろうかと雄三さんに勧められたが、他のメンバーもいるし、ゆりかもめで新橋に出ればすぐ返れるので遠慮し、皆と別れた。
9時帰宅。レギュレーターとBCを外に干し、洗濯物をまとめ、ドライスーツを浴槽に入れ、シャワーを浴びがてらスーツも洗った。
ウエルシアへ行き、缶サワーとポテトチップスを買った。
サワーを飲み、ポテトチップスを食べながら、二日間のダイビングを振り返った。今回からログブックのバインダーを、昔使っていたシステム手帳に変えたのだが、それとダイコンをまとめるポーチが欲しい。カメラに取り付けるスティックは、マクロをあまり撮らない自分には不要で、むしろBCと接続するスナッピーコイルを使い、使わない時はポケットにしまっていた方がいい。などなど。
1時過ぎ就寝。

