初日・オヤジの封印・怪談

新大塚駅から劇場まで走る。
距離的には1キロ前後といったところか。
楽勝なのだが、荷物を背負ったまま走るのは結構いい運動になる。

劇場そばの坂道で、阿野さんに会う。
走りながら挨拶する。

劇場入り後、場当たりの続きをする。
残ったシーンはそれほど多くなかったので、引き続きゲネプロの準備にうつる。

ゲネはミスが頻出した。
健吾君は、オレに投げつけるゴミ袋の用意を忘れ、代わりに誰かの上着を投げつけてきた。
おそらく混乱したためだろう、台詞も飛んだ。

だめ出し後、シーンの返しを少しやり、大急ぎで客席作りをする。
そのまま本番の準備。

開演前、下手奥の暗闇で座禅をしていると、若い役者が挨拶をしにきた。
「よろしくお願いします」
と握手をしにだ。
今回のオレの役は<神様>なのであるが、座禅状態で挨拶に来られると、お参りされている気持ちになる。
真理菜ちゃんに至っては、両手を合わせて拝んでいた。
御利益、あるんだろうか?

ゲネに比べると役者の熱は高く、芝居のノリは良かった。
お客さんに上げてもらっていたのだと思う。

終演後、お客さんに挨拶をし、初日打ち上げへ。
大きな失敗もなく無事迎えられたので、ひとまずめでたい。

共演の女子三名にお酌をされ、インナーマインドの奥深く封印されていた<オヤジ>が解き放たれてしまった。
「おネエちゃん、どこから通ってるの?」
「おじちゃんに教えて(おせえて)くれよ」
「かわいい手だね」
「声もかわいいね」

云々。
もはや<でれでれ>である。
死ねばよいのにと、これを書きながら思う現在の私である。

トイレに行って戻ってくると、オレの座っていた極楽席はほかの誰かに占領されていた。
仕方なくほかにあいている席に移動する。
弦巻君と翼君のいる席があいていた。
男子校のような席だった。
「仕方ないから怪談でもしようか?」
そう提案する。
みんなが楽しく盛り上がっている飲み会で怪談をすれば、きっと怖くないに違いないと思って話してみたら、怖かった。
どうして楽しい初日飲みの場で怖い思いをしなければいけないのだろう?
そう思った。
とばっちりを受けた弦巻君と翼君も、そう言いたげな顔をしていた。

キムラ君と演劇の話をする。
彼は前回の宇宙キャンパス公演で、作・演出をつとめた。
しかし、自分は役者であるし、そうあることが好きだと、彼は言った。
今回の芝居でも、要のポジションを振られている。
他のメンバー一人一人について質問してみると、色々面白い答えが返ってきた。
これまでも、こばちゃんや芳賀君からメンバー評を聞いている。
オフレコにするほどの大胆発言はないが、客演の立場で聞き比べるとまことに興味深い。

12時前に石井さんたちと帰る。
お客さんで来ていた伊藤君、HARADAMANも一緒。

夜、布団が冷たくてなかなか寝られなかった。
刑務所みたいだった。
布団乾燥機、捨てるんじゃなかった。
あれをかけっぱなしにして寝れば、たいそう暖かいのに。