起き抜けの気分が最悪だった。
昨日まで、本番があるからと気を張っていたが、それがなくなったせいだろうか。
部屋は蒸し暑く、そこら中にものが散乱し、どれから片付ければいいのかすぐには判断できなかった。
最低限の片付けを済ませ、仕事に行った。
歩きながら呼吸を落ち着かせるが、気分は乱れていた。
昼食をカップ麺で済ませ、午後は仕事に少しずつ集中した。
夕方、少し残業してから仕事をあがり、買い物をして帰宅。
小道具で使った人参とパイナップルを使い、タイカレーを作った。
無印良品のタイカレーキット。
パイナップルを入れたせいか、記憶にある味よりも辛みが穏やかだった。
10月のマグ公演のため、スタッフさんにメールをする。
続いてキャストの出演依頼関連のメールをする。
『トウガラシライフ』の稽古中は、それらのことがまったく出来なかった。
焦りはもちろんあったが、『トウガラシライフ』が、ものになるかどうかわからない状況だったため、とてもじゃないが他の公演のことは考えることができなかった。
朝から雑念に悩まされたが、夕食の支度やら、公演準備の作業やらに集中するうちに、気分は少しずつ穏やかになっていった。
『トウガラシライフ』は、終わってみれば楽しい公演だった。
仕込み日から千秋楽までの4日間は、ストレスらしいストレスはほとんど感じなかった。
だが、稽古初日からの一ヶ月を振り返ると、個人的には苦しい公演だった。
稽古や台本書きといった、芝居を作る具体的な作業が大変だったのではなく、一人で色々やっている時に良くないことを色々考えたり、作り出した妄想の中でネガティブな感情をぶつけてへとへとになったりしていた。
稽古をしている間だけは、そういう「どよーん」とした感情から自由になれた。
台本の構造的には一人芝居に近かった。
自分自身と向き合う機会が多かった。
それは、数年前から少しずつ蓄積されてきた、怒りとか憎しみとか悲しみといったネガティブな感情の、棚卸しをするようなものだった。
さらけ出された感情と向き合って、もちろんいい気持ちにはならなかったが、それらもたぶん、自分を作っている宿命的な要素なんだろうと思った。
ないフリはできない。
それでも、自分の心奥深くに埋もれたネガティブさを知ったことで、そいつらを暴れさせないように気をつけることはできる。
蚊に刺された箇所を掻けば腫れがひどくなるように、埋もれたネガティブさをほじくろうとすれば暴れ出す。
言葉で、自分が変わったなどというつもりはないが、時間が経ってもし、前よりも穏やかになったと言われたら、たぶん今回の公演の経験を振り返って思い出すことになると思う。
今はまだ、この芝居で何を経験したのか、整理できずにおり、心は落ち着きつつあるけれども、基本的には混乱しているのだ。