シーバスを初めて釣った

うとうとしていると夢を見た。小さい川にいる。向こう岸の右側から太った女の人が歩いてきて、「塚ちゃん時間だよ」と声をかけてきた。起きる時間だなと思い、そのまま目が覚めた。7時だった。
よく眠れた。本読みをしたからだと思う。朗読は体にいい疲労感を与える。

煮豚を作った鍋のふたを開けると、ラードができていた。それらを捨て、汁をかつおをだし汁で薄め、麺を茹で、煮豚を乗せ、チャーシュー麺にして食べた。煮汁の汁はそのまま薄めると醤油ラーメンのスーブになった。

寒くはなかったが、寒いかな? とちょっと思うくらいの気温だった。寒さと涼しさの中間だ。上着は必要だが、マフラーはいらない。

昼、「香港園」で野菜麺とチャーハン。要するに半チャンタンメンだ。時にうまいわけではなかったが、コスパはまあまあだった。

いい天気だった。結婚式から逃げたクラリスが、シトロエン2CVに乗って、今にも爆走してきそうなくらい、いい天気だった。

夜、実家へ。

8時に中川に向かう。今日の潮はあまり動かないようだったので、旧江戸川より流れが早そうな中川がいいと判断した。
湾岸道路の橋の下で釣り始める。明暗ポイントだったが魚の気配はなく、流れも思っていた以上に速かった。
エリア10を投げ、ゆっくりと引いた。流れを受けると引きが重くなった。投げ入れたポイントから弧を描くように引きたかったのだが、流れが速すぎて、ルアーは先に下流の岸壁に流れ着き、そこから壁沿いにまっすぐ引かれてきた。岸壁の下は幅2メートルくらいゴロタ石が沈んでいるので、そのゾーンを引くのは根がかりのリスクが高い。

河口に向かって少し移動した。時々、シーバスの捕食音が聞こえた。ボラがジャンプする音とは違う。ボラは下手くそな泳ぎ手の飛び込みみたいな音を立てる。シーバスは達者な泳ぎ手のクイックターンみたいだ。モテそうな音だ。

マリブに替え、橋から100メートルほど下流で引いていると、根がかりしてしまった。ロッドをしゃくったが、PEラインのところで糸が切れ、ルアーを一つロス。

新しいリーダーを結び直し、再びエリア10をつけた。少しでも水深のあるルアーはすぐ根がかりしてしまうようだ。

流れの速さを利用して、沖にルアーを流してみることを思いついた。河口の、海との合流点で、流れの中心に投げ、そのまま糸を送りっぱなしにすれば、遠投しても届かないほど離れた沖合にルアーを送り出せる。そこからゆっくりと引いてくれば、長時間魚にアピールできるかもしれない。

河口に移動した。エリア10を川方面に投げ、糸を送り出す。流れはやはり強く、糸はまるで魚がかかっているかのように送り出されていった。

100メートルほど送り出してからルアーを引いた。ごくゆっくり引いても、流れの抵抗を強く感じた。時々ロッドの先を揺らしたりしてみたが、アタリはなかった。引き寄せるまで結構時間がかかった。かなり沖までルアーは流されたと思う。

もう一度同じようにルアーを投げた。今度は、リールのスプールの金属が見えるくらいギリギリまで糸を送り出した。ただ巻きで、ゆっくりと引いていく。
ガツン、と反応があった。根がかりしたかと思いつつ、反射的に合わせた。糸を巻くと竿先がぐんぐんしなった。かかった。しかし、相当遠いところだ。岸まで寄せることができるだろうか。
竿を寝かせ、リールを巻いていった。ロッドが時々強くしなった。どのくらいのがかかったのだろう。遠すぎて見えない。
30秒ほど経って、竿が急に軽くなった。バレた。

ルアーを回収しようとリールを巻いたが、水の抵抗がまったく感じられなかった。どうやら、ルアーごと持って行かれたらしい。糸は結び目ではなく、交換したばかりのリーダーの真ん中で切れていた。抵抗して暴れた魚が、背びれで切断したのだと思う。かなりのサイズだったと思いたい。

ルアーは、マリブにつづいてエリア10を立て続けに失ってしまった。がっかりしたが、これまでずっとアタリすらない釣りを続けてきたことを思えば、たとえルアーを失っても充実感があった。

ソーランミノーに付け替えて、同じように沖へ流してみた。ゆっくり引いてきたが、今度はまったく反応がなかった。

そのまま、沖へ流す釣りを続けるか迷ったが、9時半を過ぎていた。最後に、今日は一度も投げていないバイブレーションで、やや下の層を引いてみることにした。
今まで一度もアタリがきたことのない、ぷっくら体型の安物バイブを取り付けた。シーバスのバイト音が聞こえる河口方面に向かい、できるだけ遠投し、着水してからすぐに引いた。

引いてすぐ、ガツンというアタリがあった。無意識にロッドをしゃくって合わせた。竿先はリズミカルにしなっていた。寝かせるようにしてゆっくりとリールを巻いた。途中で激しく抵抗し、竿がしなり、糸が送り出された。抵抗が収まったら竿を引き、糸を巻き取っていった。

やがて魚が岸壁に寄せられてきた。水面から岸への高さは30センチくらいだった。ごぼう抜きした。シーバスだ。

「やっと釣れた!」

暗闇で、思わず声を出してしまった。

下あごにフィッシュグリップをかけ、プライヤーでルアーのフックを外した。ルアーはひと口でがぶりとやっていた。これならバレないはずだと思った。
メジャーがなかったので、あとで計測するために、ロッドを横倒しにして一緒に並べて写真を撮った。

シーバス60センチ

撮ってからすぐ、シーバスをリリースした。そっと水につけ、ゆっくりグリップを外すと、魚は数秒じっとしてから、我に返ったように沖に向かって泳ぎ去った。
釣れないと思っていたルアーで釣れるなんて、シーバスの食性はわからないものだと思った。

もう一度そのルアーを投げてみた。着水してからすぐにただ巻きする。
また、がくんとアタリがきた。合わせて、同じようにリールを巻く。今度は、さっきより抵抗が激しく、糸が送り出される音が何度もした。
これは、ネットが必要になると思った。しかし見当たらなかった。橋の下から移動し、ルアーをマリブからエリア10に付け替えた時、地面に置いてそのまま忘れてしまったのだ。
こうなったら、さっきと同じようにごぼう抜きをしてみるしかない。

慎重に岸に寄せた。たぶんさっきより大きい。糸を巻き、魚のひと暴れが収まったタイミングで、よいしょとごぼう抜きを試みる。魚は岸壁のところまで持ち上がった。魚体がはねた。ルアーが外れた。魚はそのまま川に落下し、一瞬で沖へ姿を消した。

バレてしまったが、取り込む寸前までいった。残念だったが、ネットをなくすという大ポカをしたので仕方ない。

もう一度、ルアーを投げた。また竿先がしなった。だが、今度のは根がかりだった。 ロッドをしゃくると、PEラインのところで糸が切れた。岩に擦れてしまったのだ。

10時近くになっていたので、そこで切り上げることにした。一日で3個のルアーを失ったが、初めてシーバスを釣ることができたので、気分は高揚していた。

帰り道、岸壁に寄せながらばらしてしまったシーバスのことを考え、寄せてからフィッシュグリップをかければよかったと思った。思いつかなかったのは経験が浅いからだ。それでも、1匹目を釣った時と比べると、かなり落ち着いて対処できていた。
というより、1匹めの時は、ずっとパニックを起こしていた。

帰宅し、風呂に入り、スーパードライを飲んだ。今日の旧江戸川はどうだったろうか。中川に比べると流れは穏やかなので、河口近くでルアーを沖に送るなんてことは難しいかもしれない。

2時就寝。