6時半起き。
7時、食堂へ。朝飯はいわゆる旅館の朝飯風だったが、当然のことながら、船の朝飯より充実していた。
部屋に戻り、8時半までうだうだする。
8時45分、青灯台へ。何艘かのクルーザーがとまっており、それぞれアクティビティ参加者が乗っていた。
9時直前に一艘のクルーザーが港に入ってきた。それが今回乗る船とわかった。ガイドさんの説明を聞き、船に乗り込んで救命胴衣をつける。
初めに南島へ向かった。この島は父島の南西にあり、波の状況次第では上陸ができないらしい。しかし船長は腕利きなので、多分大丈夫だろうとガイドさんは言った。
湾を出てから、舳先に移動した。波の高低差をたっぷり味わうポジションだった。舳先が上がる時は体を縮め、下がる時は伸ばすようにすると、頭の位置はそれほど上下しないということがわかった。
南島の鮫池入り口で、船長はいったん船の速度を緩め、岩と岩の間を狙いすましたように通り抜けた。拍手が出た。
島に上陸し、見晴らしのいいところまで岩の段を上っていく。途中、参加している女性が、かなり遅れそうになっていたので、後ろからそれとなく補助した。
上がったところから、扇池という入江が見えた。写真で見たことがある有名な池だ。
先ほど、登るのに苦労していた女性が、先に降りようとしていた。船に乗っている時から、どうもガイドさんと馬が合わない様子だったので、気にはしていたのだが、危ないと思ったので、先に下りて下から補助をした。上の方からガイドさんに礼を言われた。
岩場の上り下りを助けた縁で、気に入ってもらえたのか、その後もその人と色々会話をするようになった。
崖の上から見た扇池に移動する。『紅の豚』で、ポルコが隠れ家にしている入江にそっくりだった。波打ち際や岩の上に、カニがたくさんいた。
崖の上には洞穴があった。そこはかつて、島で罹患したハンセン病患者を隔離するのに使われていたそうだ。
そのあたりの砂はすべて珊瑚がもとになった砂だった。持って帰りたいほどきれいな砂だったが、もちろん、あらゆるものの持ち帰りは厳禁だった。
ただ、国定公園になる前、船長が若い頃は、自由にどこの場所へでも行くことができたそうである。
入江の背景にある断崖からは、ヒロベソカタマイマイというカタツムリの半化石が沢山出ており、地層から転げ落ちてそこら中に散らばっていた。化石と半化石の違いはよくわからないが、その貝はすでに絶滅したそうだ。わずか1000年ほど前だというから、化石になるには期間が短すぎると思う。
その後、入江の奥にある汽水湖を見学し、船に戻った。
船長の操舵で、クジラを見に行く。船尾の方に座っていたのだが、先ほど補助した女性に「前にいらっしゃい」と示されたので、舳先に移動した。その女性は、Gさんといい、見た目は60歳前後にしか見えないが、今年78歳であるとのことだった。
クジラのいる海域に着くと、船長はスクリューの速度を落とした。しばらくすると、潮を吹き上げる音が聞こえ、クジラが浮かび上がり、再び潜っていくのが見えた。
クジラはザトウクジラで、この時期まで小笠原で子育てをするという。連休ごろから北に移動し、オホーツク海やアラスカ近海でたらふく餌を食べるらしい。小笠原にいる時、母クジラは餌を食べず、ひたすら子供に乳を与えているのだとか。
船長の話では、潮止まりの時間なのでクジラジャンプが見られるかもしれないとのことだった。クジラが潮を吹くたびに、船長は船をコントロールして、クジラと並走した。
母クジラ、子クジラを、飽きるほど見たが、とうとうジャンプは見られなかった。
兄島のキャベツビーチという入江に移動し、そこでお昼の時間となったので、昨日買っておいたパンを食べた。別のクルーズの船もとまっていて、シュノーケリングをする人が三人ほどいた。
お昼前頃から日差しはとても強くなっていた。完全に夏の太陽だった。これならウェットスーツなしでも全然大丈夫だと思った。
フィンだけ借り、船尾から海に入った。冷たいように感じたが、泳いでみるとすぐに平気になった。
ちょっと潜っただけで、南国の珊瑚礁が目の前に広がった。色とりどり、様々な魚が群れをなし、船の周りを泳いでいた。
たぶん、今年の夏、どこの海に行ったとしても、これほど魚がうじゃうじゃいる海でシュノーケリングするのは、難しいだろうなあと思った。
兄島の岸近くまで泳ぐと、水の温度が上がり、生ぬるいと感じるほどになった。移動すると魚群の種類も若干変わった。
たっぷり泳ぎ、船に戻ると、同行していた年長の男性が、マスクをつけずに船の近くを泳いでいた。どうやら、船から飛び込みができたらしい。
飛び込みなんて、昨今どこのプールに行ってもできないので、これはやるしかないと思い、船に上がってフィンとマスクを外し、船尾の台から飛び込んだ。頭からまっすぐ飛び込んだつもりだったが、体が少しくの字になってしまった。もう一度あがり、体がもう少しまっすぐ伸びるようにして飛び込んだ。今度は、まあまあうまく飛び込めた。
船に上がって体を吹き、新しいTシャツに着替えた。夏の前借りをした気分だった。
船長が、クジラがいる場所をキャッチしたらしく、船は別の海域に向かった。
クジラが鳴いている音が聞こえた。何かの笛の音みたいな音だった。親クジラと小クジラは同じタイミングで水面に出てきて、一緒に潜っていた。何度かは尻尾まで見ることができた。
4時近くまでたっぷりクジラを見て、港に戻った。
岩登りを助けた、Gさんという女性に、今夜、別の知り合いと飲むから、あなたも来ないかと誘われた。物怖じせず他人によく話しかけることができる人だと思ったので、別の知り合いとはどういう人なのかが気になり、行きますと返答した。
買い物をして宿に戻り、シャワーを浴び、洗濯物を干した。
宿の夕食を食べてから、Gさんが指定した居酒屋へ行った。
別の知り合いというのは、Gさんが泊まっている宿で知り合った、26歳の女性二人だった。勝手に、イケイケな感じの若い男だと思っていたので、意外さに驚いた。
二人の女性はとてもかわいらしかった。
亀を助けたご褒美の、ダブル乙姫セッティング飲み会だ。
ダブル乙姫さんらは、店にある亀料理をすべて注文していた。
「このたびは亀を助けてくれてありがとうございます。厨房から逃げ出したのを探していたんです。美味しいんですのよ」
などという場面を想像し、頭をぶるんぶるん振って現実に戻り、楽しくトークに加わりながら亀を賞味した。。
刺し身、ハツ、レバー、亀煮、亀のチャーシュー、亀カレー。
刺し身が一番美味しかった。普通に寿司ネタとしてもいける。レバーは、癖はないのだが、食感が独特のため、好みが分かれるかも知れないと思った。亀カレーはなんの違和感もなく食べられた。
ガリガリ君ラムコークなんていうのがあり、洒落で頼んでみると、ラムコークにガリガリ君がまるごとささっていた。
女性二人は、仕事先が変わるために長めの時間ができたため、小笠原に来ることができたのだという。確かに、そういうタイミングでないとなかなかこられないかもしれない。
島でとれるトマトを食べたら、ビックリするほど甘くて美味しかった。水耕トマト師としては、残念ながら負けを認めるしかないほどの旨さだった。
8時半に店を出る。三人の泊まっている宿の前でお別れし、自分の宿に戻った。
今日一日でかなり日焼けしていた。洗面所で鏡を見ると、顔が真っ赤になっていた。『蒼天航路』に出てくる、関羽の息子、関平みたいだった。関羽ではないところが悲しい。
12時就寝。