父島で釣り場探し

4時半頃に目が覚めた。いびき男のいびきはまだ続いていた。

日の出時刻は5時過ぎだった。そろそろ明るくなっていると思ったのでデッキに上がってみた。しかし、まだ外はうす暗く、デッキへの扉は封鎖されていた。

いったん船室に戻り、4時50分頃にもう一度上がってみると、扉があいていた。

デッキに出た。空は曇っていた。

一応、日の出時刻が過ぎるまで東の空を見続けたが、雲間から奇跡のように曙光が射すことはなかったので、船室に戻り二度寝した。いびき男はまだいびきをかいていた。

7時、レストランへ行き、朝食の和定食を食べた。ご飯、味噌汁、納豆、柴漬けだけで500円。さすがに高いが、一度は食べておくべきだろうと思って食べた。

もちろん食い足りなかったので、自販機のトムヤムクンヌードルを追い食いした。自販機には他にも冷凍食品などがあり、値段はそれほど高くなかった。

船室で『街とその不確かな壁』の続きを読む。昨日けっこう読んだので、すでに半分以上読んでいた。

この作品は、とある作品を書き直したかのような構成になっている。まだ読み終えていないので、実際はどうなるのかわからないが。

9時20分、デッキでガイドさんによる小笠原の自然解説があるというので行ってみた。天気は朝よりもだいぶ良くなり、うっすらだが陽の光が射すようになっていた。

船と並行して、カツオドリだかアホウドリだかが延々と飛んでいた。

よく晴れた日なら、聟島列島の島々が眺められるとのことだったが、あいにく地平線はガスがかかっていて島影はまったく見えなかった。雨が降らないだけましだと思った。

父島到着時間が近づくとデッキが封鎖されるので、先に船室に戻り、読書の続きをした。いびき男はさすがに起きており、スマホで音楽を聞いていた。

11時20分、父島の二見港に到着した。船を降り、泊まる宿の車で宿に送ってもらった。

部屋に荷物を置き、必要なものだけをリュックに詰めて外に出た。

レンタルバイクの店に向かう。観光客が多くないので、全台レンタル中ということにはなるまいと思いつつ、気が急いた。

店のカウンターでレンタルバイクを申し込んだ。しかし、財布の中を見ると、免許証が入っていなかった。たぶん、本人確認書類が必要になった時に、家のスキャナーで免許証をコピーした後、そのままにしてしまったのだ。

代わりに、電動式自電車を借りることにした。

父島に着いて最初にしてみたかったことは、釣りだった。ガチではなく、ルアーをテキトーに投げてみて、釣れるか釣れないか確かめる程度の釣りで良かった。

事前にポイントを調べてはいたが、陸っぱりのポイント情報はそれほど多くなかった。その中の一つ、釣浜、というポイントがあったので、まずはそこを目指すことにした。

小笠原高校沿いの道を上がり、突き当りのパーキングから、ハイキングコースみたいな山道を降りていくと、その浜はあった。石やサンゴの欠片でできた海岸で、水の透明度は大変高かったが、根がかりしまくるだろうなということがすぐに見て取れた。

岸からすぐ深場になっているポイントを探して、浜の端まで歩いてみたが、岸に近いところはそれほど水深はなさそうだった。持ってきたルアーは、ジグとかバイブレーションだったので、投げたら即、根がかりしてしまうだろう。

結局、その浜では釣りをせず、自転車を置いているところに戻った。

坂をさらに登ると、宮之浜という海岸に行けるようだったので、自転車で坂をのぼった。傾斜はかなり急で、バッテリーの残りが80%になっていた。

自転車で登りきったところに、釣浜と同じくハイキングコース型の山道があった。宮之浜までは1キロほどだった。まあ、大丈夫だろうと高をくくって山道を進み始めたが、いきなり結構な上り道があり、その後、かなりエグい下り道が続いた。

(ちょっと待て、この道、戻るのか?)

進むのを少し躊躇したが、猪木さんが例の詩を朗読する声が聞こえたので、それは幻聴であるとわかりつつも、行ってみることにした。

宮之浜は釣り浜よりも間口が広く、泳ぎやすそうだった。しかし、ここも岸に近いところは珊瑚礁ばかりで、水深もそれほどないと思われた。

釣浜の時と同じように、浜の左側端っこまで歩いてみたが、すぐ先に深場があるポイントは見つけられなかった。

結局、ここでも釣りはせず、先程、
(ちょっとまて、この道、戻るのか?)
と思った山道を、今度は上って、自転車のところまで戻った。しかし、上ってみるとそれほどキツさは感じなかった。

自転車を止めてあるところに戻り、いったん二見港近辺に戻ることにした。お昼もまだだった。

戻ってみたが、2時近くなっていたためか、行こうと思ったお店は営業を終えていた。

しかし、それほど腹は減っていなかったので、そのことは気にせず、観光を続けることにした。釣りをすることにこだわりはなくなっていたが、せっかく電動式自電車を借りたのだから、もう少し南に行ってみようと思った。

先ほど、釣浜へ行く時に通った分岐を、海側に進んだ。すぐに上り坂が現れた。さらに行くとトンネルがあったが、自転車はトンネル内ではなく、側道を走らないといけないようだった。

その先にはもう一つのトンネルがあった。そのトンネルは中を通り抜けた。出て少し進むと、境浦海岸の入り口があった。戦争で操舵不能となった船の残骸が沖に座礁している海岸だ。『釣りキチ三平』で、キャスティングコンテストの会場となった浜辺は、この海岸をモデルに描かれているはずだ。

そりゃ素通りできないっしょ、と思い、坂を降りた。釣浜とは違ってコンクリートのスロープだったので歩きやすかった。

浜は、宮之浜よりさらに幅広に見えた。夏にこういうところで泳いだらさぞ気持ちいいだろうなあと思った。

珊瑚は、釣浜や宮之浜より密度が薄そうだった。着水してすぐリトリーブすればなんとかなるんじゃないかと思った。

海岸の右端に移動し、岩の上でタックルの支度をした。ルアーは、何投げても変わるまいと思ったが、とりあえずナチュラルカラーのバイブを選んだ。

投げてみた。うっ? 投げにくい。

ロッドのせいだ。昨年の1月、鹿児島へ旅行する時、ついでにシーバス釣りができるよう買ったのだ。アホみたいに安いパックロッドだった。

ガイドは引っかかりやすいし、重いし、バランスは悪いし、ダメだなあコレと投げながら思った。

岩場にエギが落ちていた。イカが釣れるのだろう。

ロッドを片付け、しばし、海岸を散策した。船の残骸は、すでに原型を留めないほどボロボロになっていた。

境浦海岸から先に進むと、扇浦海岸、コペペ海岸とビーチが続くが、釣り目的で海岸を移動しても、おそらくどこも同じようなものだろうと思った。

ならば、二見港に戻り、浚渫された港湾部でルアーを引いて、今日の締めにすることにした。

青灯台という灯台沿いの護岸に、釣りをする人が数名いた。岸はコンクリートで段差がつけられ、沖は根が見えたが、それほど浅くはないようだった。

シャッドテールワームをジグヘッドにつけ、投げてみた。先ほどと同じく、ロッドがとても扱いにくかった。後ろに振りかぶると、トップのガイドでラインが絡まるのだ。そんなんじゃ、とても投げられん。

さらに、おそらくガイドでラインが引っかかるため、二回ほどライントラブルが発生した。リールは先日スプールを交換したレブロス。さすがにレブロスが原因のライントラブルであるとは思いたくない。

ライントラブル自体は二回とも直すことができたが、そのまま釣りを続ける気持ちにはなれず、4時過ぎに納竿した。

自転車を返し、島のスーパーで買い物をする。スーパーは通りを挟んで二つあり、今日はおがさわら丸が到着する日なので、仕入れた品物が豊富に売られるらしく、どちらの店も大変混んでいた。

ビール、カップ麺、スナック類を買って、宿に戻った。

シャワーを浴び、6時に宿の食堂へ。これは、本館にあるので、少し歩かないといけなかった。

夕食は、刺し身、煮物などの、素朴な家庭料理だった。味噌汁の具にアカバが入っており、小骨に注意してくださいと、宿の人に言われた。この味噌汁が大変美味しかった。魚の出汁が効いていて、それに生姜が足されていた。

部屋に戻り、ビールを飲みつつ、明日のことを考える。

明日は、アクティビティを予約しているのだが、シュノーケリングのためのウェットスーツは予約しなかった。しかしフィンは頼んだ。寒かったらどうしよう。

が、まあ、ガイドさんがいるわけだし、なんとかなるだろうと自分に言い聞かせ、ところで今日のドラゴンズは勝ったかなと、スポーツニュースを検索したら、阪神に完封負けしていた。

船で飲むために買ったラム酒が余っていたので、それもちびちびやり、12時頃就寝。