アジア予選で日本が北朝鮮を下し、ワールドカップ出場を決めた。
無観客試合で決めたというところがドラマチックだ。
競技場の外から日本人サポーターの応援がかすかに聞こえ、それでいて観客席は無人という状態は、なんだか三途の川を越えたところで試合をしているみたいだった。
サポーターの応援は、魂を呼び戻す祈りか。
得点を入れた時に歓声がないのはちょっと寂しかったが、静かな分試合を冷静に見ることができた。
松木氏の解説がなければもっと良かった。
国立競技場では香取慎吾が応援していて、勝利が決まってから「ありがとう!」と叫んでいた。
それに応えて慎吾コールをするサポーターもいて、一体誰がどこになにで勝ったのか、一瞬よくわからなくなった。
でもまあ、そういう細かいことが気にならなくなるのが、ワールドカップでの勝利の醍醐味か。
97年のアジア予選最終戦は、マグネシウムリボン旗揚げ公演の打ち上げとかぶっていて見られなかった。
公演の打ち上げと、放送がかぶった。
音響のオペレーターをやった片桐が、店の外で日本勝利のニュースを聞いた。
「知らない奴と抱き合いましたよ」
と言っていた。
3年前の大会では、チュニジア戦の日だかに会社で仕事があって、
(あれ? 今日は休みじゃないのか?)
と本気で思った。
それでも97年の初出場の頃と比べると、随分とファンも世間も冷静になったもんだと思う。
93年のドーハの時は、今とはドキドキ感が違った。
やっぱ無理か… いや、行けそう。大丈夫、行ける! 絶対行ける!
サッカーの試合でそうやって盛り上がるのは、日本人にとってはじめての経験だった。
だから、ロスタイムでの同点ゴールの衝撃もまたすさまじかった。
負けたわけじゃないのに、
「ああー! 負けちゃった!」
と叫ぶサポーターがテレビに映っていた。
サッカーで日本が勝った時の嬉しさは、他の競技と比べるとレベルが1ランク高いと思う。
なぜだろう?
得点が入りにくい競技だからか?
プレイが戦争に似ているからか?
もちろん他のどんなスポーツでも、日本チームが勝つのは嬉しいし、負けるのは悔しい。
だが、サッカーのそれは振幅の差がけた違いに大きい。
負けると暴動が起きたりする。
バレーボールのワールドカップで日本が負けて、暴動が起きた話は聞いたことがない。
野球もそうだ。
どこに秘密があるんだろう。
ともあれ、首尾よくW杯出場が決まって良かった。
開催国だった前回よりも、意味のある出場だ。
ジーコ監督更迭論もこれで止むだろう。