赤い鬼が解き放たれる

まだ6月なのだ。
夏の芝居といえば7月という、強い思い込みがあるため、もう8月になっているのだという感覚があった。
まだ7月がまるごと残っているのだ。

なぜそんな思い込みがあるのかというと、これまで6月に芝居をしたことがなかったせいである。
学生時代は5月に演目を決め、6月に稽古をし、試験の終わる7月中旬から下旬に本番をするというのが定番だった。

芝居が終わるとそのまま夏休みに突入するため、学内のアトリエで食い物と酒をを持ち寄っての打ち上げは、夜中から翌朝、そして昼過ぎまで延々と続いた。

たまに食い残しが転がったままになり、8月のお盆頃にアトリエを覗くと、ゴキブリの夏フェスが開催されており、しかも大入りという有様で、コックローチ程度ではどうにもならなかったりしたものだ。

掃除屋の精算をこつこつ進めている。
事務作業に集中することで、芝居ボケを防いでもいる。
同時に、次はどんな芝居にしようかなあと、あれこれアイディアを練っている。

独り芝居をするわけだが、公演場所を決めるのが難しい。
どう考えても、俺一人ではそんなにたくさんのお客さんは見込めそうにない。
アイディアだけはポンポンと浮かぶのだが、
「こんな話どう?」
と言うふうに話す相手が、スタート時点の現在、すでにいない。

まるで、来るはずのない村人のために、せっせと宴の支度をする、泣いた赤鬼のようだ。

青鬼君が悪役を買って出てくれるあの話は、あまり好きではない。
青鬼もろとも暴れ回り、怯えた村人どもから年に一度、赤鬼を来賓に招いた飲み放題食い放題の宴を開くことを約束させる話が好きだ。
楽しいね。

招かれた赤鬼と怯えまくった村長は、

「きさまら、なにを震えておる? わしが怖いか?」
「そんな、めっそうもございませぬ」
「ならば笑ってみよ」
「は、はは、はは」

などという会話をする。
楽しいね。

このあと当然赤鬼は金棒で村長をぶん殴るのだが、美しい村長の娘が、

「おやめください」

と入ってきたりして、赤鬼は酔った顔に好色そうな笑みを浮かべて、

「ふん、きさまはこやつの娘か。ぐふふちょうどよい。酒にも食い物にも倦んだところよ」

と、いまにも裸にひんむかんばかりの勢いで娘の胸元に手をかけるのだけど、娘が怯えた様子を
見せないので、

「おぬし、わしが恐ろしくないのか?」

と目を覗き込むと、その娘が盲目であることに気づいてしまうのだ。
楽しいね。

楽しいけれど、まったく先に進まない。
これ、芝居にできるんだろうか。
朗読スタイルでどうだろうか。

夜、NTT武蔵野研まで走る。
往復10K。
右腿の付け根が痛くなった。
昨年の11月頃から、たまに痛くなる。
久しぶりに走ったせいかもしれないが、癖になっているようだと困る。
走り終わるとけっこう痛い。
病院行った方がいいだろうか。
とりあえず、明日は走らず様子見だ。