その古本屋は中央区新川にある。
たばこ屋と見紛うたたずまいだが、店の中は本棚があり、文庫本で一杯だ。
入り口近くの本棚は、一冊100円の古本。
大体、かなり古いベストセラーか、毒にも薬にもならない類の本が多い。
それ以外の本は、ほとんどが文庫本で、内容や希少価値に応じた、正しい値段がつけられている。
安ければいいってもんじゃないのだ。
森繁久弥が中央公論社から出した「アッパさん船長」という本は、ここ3年ばかり探し回っていたのだが、この店で見つけることが出来た。
値段は、元の値段より高かった。
が、それでいいのだ。
大型の古本屋が増え、古本が身近になってきたのはいいのだけど、やはりいい本には正しい値段をつけておいて欲しい。
椎名誠の「さらば国分寺書店のオババ」に出てくる古本屋の女主人みたいな人は、確かに読書人をワンランク上に高めてくれるのだと思う。
そういう意味で、ブックオフはいかん。
さて、その新川の古本屋で、黒澤明の「蝦蟇の油」を買った。
岩波同時代ライブラリーから出ていたのだ。
こういう本が何気なく並ぶ古本屋は、つぶれて欲しくないものだ。
店の番をしているのは、機嫌の良さそうな下町のばあちゃんで、家計の足しに古本屋を営んでいるように見えた。
「蝦蟇の油」読む。
明治人のパワーは、現在の日本人よりも肉食的に思える。
徹夜、徹夜、議論、喧嘩、啖呵、等等等。
神話時代の映画監督話が面白い。
モノを作るということはどういうことかを見直すためには、非常に示唆に富んだ書である。
夕方、TJPスタジオにて切り通し。
稽古場よりも天井が高く、袖の間口も広くなり、演技する時の窮屈な感じは大分減った。
が、今までヨコ移動に費やしていた時間が若干延びる箇所もあるようだ。
圧力から開放されると同時に、緊密な感じがなくなるとまずいのだろうなと、妙に客観的になるが、動いている時にはひたすら脊髄反射的な運動を繰り返している。
喉の調子は今のところ良好。
だが、肉体が緊張した状態での発声で、あっけなくつぶれる可能性があるので、体を冷やさず、やわらかくすることばかり心がけている。