楽日、打ち上げ、浜口京子

 たっぷり眠れるはずだというのに、昨日は遅くまで「幻想水滸伝2」などをやってしまった。
 確かにその昔かなりハマったゲームだが、なにも今やることはないだろうと思う。
 それなのに自分は一体なにを考えていたのだろうか。
 潜在意識が何かを伝えようとしていたのか。
 その鍵が「現像水滸伝2」にあるのか。

 このゲームにハマったのは5年前の秋で、「暮れなずめ街」という芝居が終わった直後だった。
 当時仕事をしていなかった俺は、来る日も来る日もプレステに向かい、このゲームをやってやってやりまくったのだった。
 だから、ゲーム自体は面白かったけれども、それにまつわる思い出はあまりいいものではない。
 そんなゲームと再び向き合うことで、苦い記憶の精算をはかるよう、潜在意識が訴えている?

 <潜在意識>なんて書くと起きている自分に責任がないみたいだが、昨夜の自分は眠気と疲れでぼろぼろだったのだから、なにか意味のある行動をしたとすればそれは潜在意識のしたことだと考えてもいいだろう。
 というより、日頃自我に押さえ込まれている潜在意識が、眠気と疲れで自我の弱まった昨夜、表面に出てきたのかも知れない。
 少々強引かもしれないが。

 4時。
 小屋入りしてから片桐によりバラシの段取りが大まかに説明された。
 基本的には時間がまったくない。
 バラシに関する不安をかすかに抱えたまま、7時半に本番を迎える。
 喉の調子は決して良くはないが、今日持ちこたえるには十分すぎるくらいだった。

 家族とご飯を食べるシーンでハプニングが起きた。
 三代川がご飯を口に入れすぎて、
 「おっ?」
 と言ったきり絶句してしまったのだ。
 本当は、
 「おまけにヤキモチ焼いてるの?」
 という台詞を言わなければならなかったのだが、メシが喉に詰まり、
 「おっ?」
 しか言えなかったのだ。

 三代川は焦り、ほとんど噛んでいないご飯を無理矢理飲み込もうとしていた。
 そしてご飯は当たり前のように喉に詰まり、その顔はゆっくりと紫色に染まっていった。
 彼にしてみれば、ご飯を吹き出さないのが精一杯だったみたいだ。
 しかし、顔をまだら紫に染め、目を充血させ、「おっ?おっ?おっ?おっ?」などとアシカのごとくどもりながらご飯をもぐもぐさせる男の顔をじっと見るのは、色々な意味で辛かった。
 笑うわけにはいかないし。

 それ以外にも、三代川がラジカセのストップボタンを押し間違えて、カセットテープの中に入っている曲が流れっぱなしになったりなどのミスがあった。
 しかし、全体的にミスがあっても淡々とそれに対処するようになっていた。
 舞台の自然治癒力みたいな力が作用していたのだろう。
 楽日はそういうものかもしれない。

 終演後、すぐにメークを落とし、前回出演してくれた土屋君と、チラシのイラストを書いてくれたみっちゃんに挨拶する。
 そして大慌てでバラシに取り掛かる。

 大きな作業はパネル取り壊しと、照明機材の降ろし作業。
 何から手をつけていいのかわからないのではなく、ただ作業量が多いというバラシ。
 およそ2時間は夢中で作業する。

 トラックを借りに行き、積み込み作業をする。
 雨が降っていた。
 積み込み作業中に雨が降るのは、4月公演と同じだ。
 ごみの量はやはり多く、照明機材も沢山あった。

 1時過ぎにバラシ終了。劇場事務所に挨拶に行く。
 支払いを済ませてから、健ちゃん、片桐、松本さんと4人でタクシーに乗り、打ち上げ会場である高田馬場へ。

 タクシーの運ちゃんはオリンピックの女子レスリング中継を聞いていた。
 「ああそうか。浜口京子だ」
 と俺。
 「決勝、今日でしたっけ」
 と片桐。
 「そうだよ。浜口京子、金とったかな。気になるなあ」
 すると、初老の運ちゃんがぼそりと答えた。
 「浜口、負けちゃったよ…」
 「えっ!」
 「3位決定戦だよ…」
 目の前が真っ暗になった。
 「なんだよ、浜口、とれなかったのかよ、金…」
 落ち込む俺に片桐が言う。
 「そんなにショックですか?」
 「ショックだよ。俺、ファンだもの。次回の北京で、31歳か」
 「まだいけますよ」
 「いけるね。でも、オヤジさんが心配だよ。その頃まであのテンションがもつか」

 高田馬場「海乃家」で打ち上げ。
 中はすでに飲みが始まっていた。

 受付を手伝ってくれた坂本さんが「できましたー」と声を発し、威勢良くお好み焼きを焼いていた。
 とりあえずCCレモンを飲む。
 駆けつけ3杯。
 うまかった。

 海乃家は演劇関係者が打ち上げに使うことが多い。
 店番のばあさんは70代後半か80代か。

 大入り袋を大急ぎで配り、とりあえずつまみで腹を満たすと、たちどころに眠くなった。
 おかだようちゃんと<怖いもの>の話をするうちに、頭がぐらぐらしてきたので、隣の部屋で仮眠をとる。