開き直り禁止法案

 橘玲「得する生活」読む。
 <経済合理性>について身近なものから考えていく本。
 例えば、クレジットカードの機能をじっくりと考え、そこから経済の仕組みを見出していくというやり方だ。
 難しい経済用語が出て来ることがないのですらすら読めた。

 カード会社はそんなに儲からないという。
 日本の法律は弱者に親切で、借り倒しの客から残額を回収する手段は限られている。
 巷には借金を踏み倒す方法を書いた書籍が出回り、借金を苦にした自殺者が出れば批判はカード会社に向く。
 なぜ債務者は自殺するのか。
 「貸したお金を返してください。約束を守ってください」
 この言葉によってがんじがらめになるのだという。
 つまり、借金を返せない自分=約束を守れない自分、ということに耐えられなくなるのだそうな。

 自殺する人は責任感が強いのだろう。
 そうでない人はどうなるか。
 逃げるか、開き直るだろう。

 昔、レンタルサーバーの滞納料金を督促する仕事をやっていた。
 回収が確認されるまで顧客に電話をかけるのだが、精神的にしんどかった。
 開き直る人との会話は、いつの間にかクレーム対応みたいな流れになってしまうのだ。
 だからこちらもどんどん事務的になっていく。
 そうすることで自分を守らないとやってられない。

 開き直りは怖い。
 「どうして約束守らないといけないの?」
 そう言われたら反論しても時間の無駄だ。
 事務的になるしかない。

 これが殺人などの凶悪犯罪になると、
 「どうして人殺しちゃいけないんだ?」
 となってしまう。
 池田小事件の宅間被告と同じだ。
 宅間の死刑は異例の早さで執行された。
 開き直りに対するには事務的に処するしかないという一つの例だろう。

 要するにだ。
 開き直ってはいかんのだ。
 逆に言えば、人を開き直らせてはいかんのだ。

 夜、久しぶりに「紅の豚」観る。
 軍をやめた飛行艇乗りが豚として生きているという抽象的な設定を、よくぞエンターテイメントに仕上げたものだといまさらながら感心した。
 「どうやって豚になったの?」
 という疑問を、面白さで封じていることになる。
 シナリオ構成も美しい。
 話の重要なポイントがきれいに3等分されている。

 前 全登場人物の登場と、ライバルのカーチスに敗れて飛行艇が壊れるまで
 中 飛行艇修理とフィオの活躍
 後 カーチスとの決戦

 こんなに単純なのだ。
 大もとの枝がしっかりと3本生えていれば、あとは小枝をいくら複雑にしても、観ている者が話を見失うことがない。
 お手本だ。