生きることは揚げること

 Dynabookのインストールは無事終了した。
 バッテリーの残量が心配だったが、昨日計測してみたところ、100%の充電で残り2時間と表示された。
 実際に使う時は色々な作業をするから、2時間はとてももたないと思うが、オークションの中古品はバッテリーが死んでいることが多いので、それを考えると上出来だ。

 色々なソフトをインストールした関係で、3、4年くらい前に記録したCD-ROMの中身を調べた。
 その中に、PC-9801のエミュレータがあった。
 動かしてみると、MS-DOSが起動した。
 しかし、動かすアプリケーションソフトがなく、昔を懐かしむというわけにはいかなかった。
 15年前の一太郎を動かしたらどうなるか試してみたい。
 稲妻のように速いんじゃないだろうか。
 現行の機種で古いOSを動かすとものすごく速いという。
 しかし中にはウィンドウズ95のように、速すぎるCPUでは動かないものもあるそうだ。

 VerticalEditorを試し試し使っている。
 これはなかなか使いやすい。
 左側のウィンドウにノード(枝)を作れば、アウトラインプロセッサみたいなことができる。
 長い文章を書く時にはかなり重宝するだろう。
 フリーウェアだからサポートがしっかりしているわけじゃないが、その代わり公式サイトの掲示板にはユーザーからの書き込みが多く、フィードバックは早そうだ。

 夕方、西荻窪のとんかつ屋『登亭』に行った。
 店の構えは小さい。
 注意して見ないと通り過ぎてしまいそうだ。
 中はL字型のカウンターのみ。
 大人が8人も座れば満員になる。

 メニューはどれも安かった。
 フライ中心の定食屋なので、様子見のためにミックスフライ定食を頼んだ。

 店長らしきじいさんが水をくれた。
 年は80歳近いんじゃないかと思う。
 もう一人おばちゃんがいて、しきりに何かを探している。
 じいさんはカウンターの中をうろうろしている。

 おばちゃんは、着火マンを探していた。
 「どーこ置いたのよ」
 とじいさんに聞く。
 じいさんは、
 「んー、んー」
 と、相槌なのか考えているのかよくわからないような返事をする。
 会話の様子では、実質的に店を切り盛りしているのは、おばちゃんのようだった。

 じいさんはまた水をくれた。
 目の前にコップが二個並んだ。

 フライが揚がりそうになり、じいさんがライスを平皿に盛ってくれた。
 盛られたライスは量が多く、小山状ではなく円筒形になっている。
 フライは、チキンカツ、メンチカツ、トンカツの3種類が入っていた。
 味は意外なほど良く、かかっているソースもおいしかった。
 じいさんがまた水をくれた。
 目の前のコップは三個。

 新しい客が入ってきた。
 メニューを眺めてから、
 「カレーってなかったっけ?」
 と聞いた。
 おばちゃんは一瞬間を置く。
 「冬はやってないんですよ、出ないから」
 じいさんが思案しながら続ける。
 「ハヤシならありますよ…」
 「ないでしょ!」

 別の客が、立て付けの悪い入り口から苦労して入ってきた。
 戸がなかなかしまらず、やっとの思いでカウンターの席に座った。
 じいさんが言った。
 「毎度ありがとうごさいました」

 こちらが食べている間もじいさんは、メンチカツを揚げてと頼まれているのにハンバーグを出そうとしておばちゃんに叱られたり、四杯目の水をこちらに出そうとしたり、客としゃべるおばちゃんに合わせて笑ったりしていた。
 いつから店をやっているのか知らないが、おそらく死ぬまでずっとこの厨房でフライを揚げ続けるつもりなのだろう。
 じいさんにとって人生とは揚げることなのだ。

 夜、デスクトップPCとノートPCをつなぎ、データのコピーをする。
 これで、とりあえずは何が起きても、ノートPCのデータでなんとかなる。
 バッテリーは、やはりそんなにもたなかった。
 大容量バッテリーを買わないと、実用的ではなさそうだ。