気持ちが動かず

昼前、天緑飯店で五目ソバと餃子を食べる。
いい感じの中華料理店だったが、開店早々だったせいか客は自分一人だった。

11時半劇場入り。
優都子ちゃん、千陽ちゃん、谷中さんが受付を手伝いに来てくれた。
さらに、昨日来てくれた知恵ちゃんも、昼のみ手伝いに来てくれた。
3人でも十分なところに4人体制という贅沢感を味わう。

照明オペは星ちゃんから潮田くんに変わった。
初日の反省として、明かりが消えるまでの「ため」などを伝える。

2時、マチネ開演。
昨日よりもさらにゆっくりやっている感覚があった。
途中台詞を少し噛んだが、焦ることなくラストまでいく。
ところが最後のシーンで、どういうわけか感情が高まらなかった。
冷静な自分が不意に降りてきて、成り行きをうかがっているような感じになってしまった。

上岡くん、しのちゃん、森さん来る。
「オレ一人でウケてましたよ」
と上岡くん。

優都子ちゃんは客席間の地面にぺたりと座って見ていたそうだ。

「目線の高さが同じで、面白かったですよ」

とのことだった。

ソワレまでの時間は、昨日ほどではないにせよ、たっぷりあった。

「これじゃ昨日、時間余りまくりでしょ?」
潮田くんが言った。
「うん。女の子達は西荻探検に出かけていたよ」
潮田くんは苦笑すると、仮眠体制に入った。

しばらく、優都子ちゃんと話す。
マグネシウムリボンでやった昔の作品の話など。
話しながら、舌の使い方や、声の出し方を確認した。
リラックスして人と話す時は、舌の回りが良い。
これが本番中になると、より強く大きな声を出そうとしてしまい、舌に無理な力がかかって口蓋に引っ掛かったり、台詞を噛んだりしてしまうのだ。

ソワレ開演前、袖で台詞を確認しながら、喋る時に力まないよう自分に言い聞かせた。

6時開演。
おそらく、全ステージ中もっとも喋りがゆっくりだったと思う。
それにも関わらず、台詞の噛みも多かった。
口の中で舌が障害物競争をしているようだった。

中盤、ホテルに出迎えに行くシーンも、心理と生理がうまく噛み合わない感じがした。

ラストは、マチネに比べると気持ちがこもったが、そこに至るまでの演技は、よたよたしていたと思う。

終演後、お客さんに挨拶をし、後片付けをする。
客席の平台を拭いて片付け、畳を剥がし、わずかに吊ってある照明機材を下ろし、掃除をするだけ。
ただでさえ人員に余裕があったのに、見に来てくれた桃原くんやトシさんに加え、芹川と安見くんが手伝いに来てくれたので、8時にはすべて終わった。

荷物をいったん自宅に置き、劇場さんに挨拶をして退出。
昨日に続いてロック食堂へ行き、受付さんや潮田くんとささやかに打ち上げをする。

トシさんは紹介してくれる女優さんと先に飲んでいた。
隣に座るが、彼女は予定があるらしかったので、メールアドレスのみ交換する。
昨日と同じく、飲み物をちびちびやりながら話す。
打ち上げというよりは、手伝いの皆さんお疲れ様でしたという飲み会だ。

芝居について感想を聞く。
トシさんは、
「ヒモっぽくないので、慣れるまでに時間がかかった。台本選びの問題かもしれない」
潮田くんは、
「夜はボロボロで、台本にない台詞とか言ってた」
優都子ちゃんは、
「昼見て面白かったところが、夜はから回っていた」

自分は、昼の芝居が終わった時に「失敗した」と思っていたのだが、見る人によると昼はそんなに悪くなかったのだという。

失敗したと思ったのは、最後の方で感情が高ぶらず、発している台詞がすべて嘘になっている感じがしたからだ。
夜はそこに気をつけ、なおかつ前半をもっと楽に喋ろうと思った。
が、結果的に噛みまくり、上滑りし、から回ることになってしまった。
たぶんこういうミスや失敗こそが、オレが自分の中に持っている<失敗の型>なのだろう。

桃原君は9月公演のキャストが決まらず、ぐったりした顔をしていた。
安見くんもまた、来年1月の公演に優都子ちゃんを誘うべく、作品タイトルをどうするかという話を熱心にしていた。

昨日に続いて、横手焼きそばは旨かった。
あっという間に食べた。

とにかく、やれたということが、良かった。
つかさんの芝居をやらずに後悔するということは、これでなくなったのだ。
あとは、諸々の苦さはh、これからなんとかしていかないといけないのだ。

11時半過ぎに店を出る。
そとはそれほど蒸し暑くなかった。
終わった、と少しほっとした。