7時起き。
昨晩は寝苦しくて、寝汗をたっぷりかいた。
ニンニクチャーシュー麺は消化に悪く、まだ胃の中に残っている気がした。
9時から仕事。
昨日意図して自堕落に過ごした反動で、いつもより丁寧に仕事をした。
どうせダラダラ過ごすのなら、ダラダラ過ごすぞと意識した方がいいのだろう。
これからも、月に一日ペースで自堕落日を設けようか。
朝、昼、何も食べず胃を休ませる。
定時にあがり6時帰宅。
台本の印刷をし、7時から稽古。
知恵ちゃん、風邪をひいてしまったようで本日お休み。
前回の稽古とは逆に、知恵ちゃん以外の女性陣が勢揃いした。
アイーダの筋トレを見守り、稽古開始。
渡してあるテキストの部分を切り取り、見える形にしていく。
積み木遊びだ。
女性陣には序盤、そういうのを見てもらい、ちょっとずつ役を割り振って参加してもらう。
鶴マミ、玉ちゃん、優美ちゃん、笑里、なるちゃん、初稽古。
独り言をいうシーンを女性陣に順番にやってもらった。
創ってもらうというよりも、その台詞を読んで感じたことを聞き、なるほどなあと思うことを繰り返す。
前回知恵ちゃんに読んでもらった時は、違和感を感じる部分を教えてもらった。
だが、別の女優にやってもらうと、感じ方はまったく違うようだった。
鶴マミがマグに出るのは「ジャック」以来。
2月に彼女の芝居を見た時に、むむむと思いメールをし、今回出演してもらうことになった。
むむむの中には、言葉では説明出来ない感想が入っている。
納得させられたというのが一番近いかもしれない。
その鶴マミがやる独り言場面が非常に達者だった。
上手いなあと思った。
独り言を続けた後にぽつりと漏らす、
「楽しい」
のひと言に、むむむがあった。
終わった後、
「人生だね」
と感想を述べる。
同じ台詞を、なるちゃんは危うさ、玉ちゃんは真面目さ、優美ちゃんは生命力、笑里は煩悶でそれぞれ表現していた。
もしかするとこの台詞、女性陣が必ず一回言った方がいいんじゃないか?
場面を変え、女性陣中心に稽古をする。
夫婦の場面。
鶴マミ、上手かった。
難なくこなしている印象。
「マミさん上手いよ。色々客演した方がいいよ」
と、バカみたいな感想を述べる。
なるちゃん、ユニークな作りをしてきた。
独り言場面で苦心した分を挽回する良さがあった。
玉ちゃんはオレが相手役をした。
誠実さ、真面目さと近距離に感じる。
東急田園都市線沿線、たまプラーザ以西に住む主婦で、結婚5年目、子供はまだいない。
そんな感じ。
最後に、女友達の場面をやる。
しっかり者を笑里、独特な子を優美ちゃん。
優美ちゃん、独り言場面でも感じたのだが、生命力の基本値が高い。
発するものが、バリアーを突き破ろうとする。
命が燃えている。
不思議ちゃん風の役かなあと思いながら書いた台詞だが、彼女が言うと無邪気に楽しむ様子に見える。
パックのようだ。
対するしっかり者が笑里というのが、妙におかしい。
笑里は妹に対して、どんなお姉さんなのだろうと空想する。
本当は自分の方が、しっかりした人についていきたいのに、相対的に相手の方がふわふわしているので、自分がしっかりしなくちゃと思い込む女性のイメージが浮かぶ。
しっかりしなくちゃと思う時点で、十分しっかりしてる。
あっという間に稽古は終わる。
男性陣は徐々に役が決まっているが、女性陣には申し訳ないが少々お待ち下さいと告げる。
見事なほどみんな違う芝居をしてくるのが楽しい。
買い物をして10時帰宅。
レトルトのカレー、玄米粥、サラダ、さばの水煮を食べる。
夜中の2時、外に出た。
ブラックニッカのポケット瓶を持ち、首にタオルを巻いて某所へ。
カップルがベンチで抱き合っていた。
ガン見して通り過ぎ、周囲に誰もいないスペースまで移動する。
猫がやってきた。
ピーナッツを放ってみた。
猫は駆け寄り匂いを嗅いで、なーんだ、というふうにこっちを見た。
話しかける。
「明後日引っ越しなんだわ。荷物まとめなきゃいけないんだけど、その前に野宿しておこうと思って来たんだ。今度の芝居でそういう登場人物がいるんで、自分でも体験してそれを生かそうというわけだ。フィールドワークだろう? まあ、引っ越す前に、町を体感しておくっていうか、抱かれておくっていうのか、うまく説明できんが、思いついたらやっておいた方がいいだろう」
猫は芝生にしゃがみ、よその方を見ている。
「今まで引っ越しは何度も経験していて、その都度センチメンタルな気分になってきたんだが、今回は不思議とそういうのがないんだな。冷静かつ客観的というか。叙情性が乏しいというか。芝居の台本を書く人間がそんなことでいいのだろうか? 年をとったからそうなったのか、それとも感情的な揺れを体験し尽くし、心が麻痺しているのか、わからんのだけれどもね」
ウイスキーを飲む。
「で、なんで野宿をしようと思ったかというと、これもまったくわからない。この前細田くんと話した時に」
猫が「ニャッ」と鳴いた。
「ん? 君、細田くん知ってるのか? お前、ほんとにこのへんの野良か? 飯どうしてるんだ? バッタとか食ってるのか? まあいいや。細田くんと話した時に、やってみた方がいいと思ったんで、来てみたわけだ。君と僕が出会ったのも、そういう偶然の積み重ねがあったからなんだよ。どうだい。ピーナッツ食え」
ピーナッツを放る。
猫は追いかけるが、匂いを嗅いですぐに興味をなくし、寝転がった。
「芝居で野宿のこと書いたことがあったんだけど、あの時は実際に野宿しようなんて思わなかったんだよな。今回はなぜ思ったんだろう? 何でだと思う?」
猫は急に草むらにいる何かに興味を示した。
身をかがめている。
「お前、バッタ追いかけてないで何か言えよ。あっち行っちゃうか。そうか」
猫は走り去ってしまった。
ウイスキーを飲み、独り言を続ける。
「ほんとは多摩川べりとか行ってみたかったけど、忙しくてな。近場で済ましてるわけだ。生憎、曇ってて星が見えないのは残念だけど、夏だし、寝っ転がればそのうち朝だろう。そういうのも野宿というのだろうかね。蚊、大丈夫かな。大丈夫なわけないか。まあ、実際に体験することが、お?」
猫はいつの間にか戻ってきていて、ベンチによじ登っていた。
「なんだお前。好奇心か? 餌ないぞ」
そのまま数十分ほど黙り、ウイスキーをちびちびやり、ピーナッツをかじった。
猫はまた、バッタか何かを追いかけて、どこかへ行ってしまった。
酔いがいい感じに回ってきた。
ベンチに横になった。
空は曇っていた。
目をつぶった。