孤独だからこそ寂しくない

クーラーの温度を29度に設定して寝た。
それでも寝汗をかいた。

7時過ぎ、どういうわけか今日が休日であると思いながら起きた。
スマホで時刻を見て、じわじわと平日であることに気づいた。
しゃくに障る月曜日。

9時から仕事。
いつものようにルーティンワーク。

昼休みに少し台本書きをする。
オープニング場面のイメージを固める。
人の立ち位置を変えず、場面を移動させるような転換はどうだろうか。
リフレッシュルームの椅子に座り、ノートパソコンで台本を書いているよりも、稽古場で役者達が集まってワイワイ考えながら稽古した方が、アイディアは出やすい。
文字にすると、もどかしくなる。

台詞以外の情報はすべてト書きという形式が、台本の一般的な書式だが、他の書き方はないだろうか。
客席からの視点、舞台からの視点、登場人物からの視点、演出からの視点、作者からの視点、すべての視点からの記述がト書きに集中する。
すべてを一つにまとめ上げ、文学的に仕上げればそれは戯曲になるのだろうが、上演用台本としてそれがベストかというと、そう思えない。
かといって、上演に特化した記述のみト書きに書くと、イメージを膨らませにくい。
何か一工夫できないだろうか。

そんなことを考えるうちに休憩時間は終わる。

午後、メンテナンスの時間前に仕事の担当さんであるオダさんから電話。
面談コーナーへ行って話す。
契約の件と思いきや、無期契約の話だった。
考えたことがなかったので、どのようなメリットとデメリットがあるのか聞く。
メリットは、契約終了後に仕事にあぶれるリスクがなくなること。
デメリットは、赴任先の融通があまり利かないこと。

今は赴任先が新宿だが、たとえば大宮や横浜になってしまった場合、通う時間は長くなり、交通費の負担も大きくなる。
千葉だったらさらに大変なことになる。
その都度引っ越すわけにもいかない。

「個人的な環境が変化すれば、意見も変わると思います。たとえば結婚して子供ができるとかね」

とりあえずそう答える。

6時にあがり中野へ。
北口にて知恵ちゃん、次回出演する玉本さんと待ち合わせ。
「魚せん」へ。

玉本さん、国分寺に住んでおり、仕事先は武蔵小金井とのこと。
知恵ちゃんとは学校で演劇を学んでいた頃からの付き合い。

今回の芝居はどういうものにしたいのかを二人に話す。

「去年の暮れくらいに、次回は孤独をテーマにしようと思ったんです。なぜそう思ったのかはわかりません。でも、思ったということは、意識の深いところで何らかの意図が芽生えたんでしょうね。以来今年に入ってからもずっと、孤独について考えてきました。先月、急にポリスの曲が聴きたくなったんです。知ってますか? スティングがいたバンドです。パンクムーブメントに乗っかってデビューして、またたくまに世界的成功を勝ち得て、およそ5年で活動停止しました。ブレイクした曲に、”Message in a bottle” というのがあるんです。その曲がとても気になって、プレーヤーに入れて何回も聴きました。すると、なぜ売れたのかがわかった気がしたんです。歌詞は、漂流した男が助けを求めたメッセージを瓶に詰めて流し、海岸に流れ着いた何千億本の瓶を見つけて、自分だけじゃなかっんだと気づくという内容です。リスナーはたぶん、何千億個の瓶が流れ着いていたという部分を聴いた瞬間、ラジオやレコードを通じてもの凄くたくさんの人とつながったと感じたんじゃないですかね。孤独を通じてつながったんですよ。孤独だからこそ、一人じゃないという逆説ですね。家に帰ると一人が寂しくなって、辛いと感じる人は沢山いると思うんです。でも今回の芝居では、それは別に寂しくはないし、辛いと感じる必要はないということを、言葉ではなく物語で示したいと思っているんです」

こんな感じのことを、熟成肉のステーキや、ピッツァや、ポテトフライの合間に喋った。
知恵ちゃん、しらすが苦手のはずなのに、頼んだピッツァにはしらすが入っていた。
「でも食べます」
目を見なければ食べられるらしい。

玉本さんは、休みの日には家でのんびりとテレビを見ているのが好きだそうだ。
「外にでるのが面倒で。たまに友達の出る芝居とかがある時は、仕事があるひを選んで夜に見に行きます」
「それわかる。あたしも一日の休みだったら家にずっといるなー。芝居は仕事の日に行く』

充実したインドア生活に引け目を感じる必要はなし。
休みの日に、「猫」「赤ちゃん」で検索したYoutube動画を見ながら、一日中飲んで過ごしたっていいのだ。余計なお世話だ。オレの充実にとやかく言うな。
そしてみんなもそうだろう、という話。

10時前に店を出る。
今回集まっている役者はみんな、芝居をしていない時はそれぞれの人生のためにちゃんと働いている。
ちゃんと働いている役者さんに、興味がある。

10時半帰宅。
部屋に熱気がこもっていた。
温度計つきの目覚まし時計を見る。
34度だった。
クーラーをつけても、32度までしか下がらなかった。
にもかかわらず、それなりに涼しいと思えた。

水のシャワーを浴びる。
ぬるかった。
2時就寝。