桑の実摘みと『ストーリー・オブ・マイライフ』鑑賞

5時に起きた。

今日はシアーシャ・ローナン主演『ストーリー・オブ・マイライフ』の公開日なので、あらかじめシアーシャ休暇を取っておいた。

休みをとったついでに、かねてから行こうと思っていた多摩川の桑の木めぐりを映画を見る前にしようと思い、6時に家を出て是政に向かった。

五日市街道から環八、井の頭通り、人見街道、東八道路と走り、野川公園の手前で再び人見街道に入り、新小金井海道を南下し、競馬場通りから府中街道に出た。

そこで昔働いていた卸売市場のすぐ近くに来ていることに気付いた。

働いていたのは26歳から27歳の頃だった。朝5時前に起き、バイクで市場に出勤し、5時半から11時半まで働いていた。仕事を辞めてからはたぶん一度も訪れていない。

時刻は7時になったばかりだった。映画は10時10分からだ。時間的にまだ余裕がある。場所的にもそうちょくちょく訪れるところではない。で、行ってみることにした。

センターの外観は記憶にあった姿とまったく変わっていなかった。

自転車を止め中に入る。
通路を歩き、働いていた青果店のテナントへ行くが、現在は営業をやめており、別の店が入っていた。

二階駐車場から車が下りるスロープへ行ってみた。
働いていた当時、朝一番の仕事は大きい台車に段ボールに入った野菜を積み、そのスロープを上り二階の仕出し弁当屋に配達することだった。
スロープは昔のままだった。仕出し弁当屋が今もあるのかどうかはわからなかった。

センターの通路に戻って歩いた。
薬局に野菜を届けた時、栄養ドリンクをもらったことがあるのを思い出した。市場の店舗の人はおおむね親切にしてくれたのだ。自分が働いていた青果店の社長は暴君で有名な人だったので、気の毒に思われていたのかもしれない。社長はたしかに競りの人や市場内の人としょっちゅう喧嘩をしていた。

しかし社長に怒られたという記憶はあまりない。積み卸し作業でミスを犯すと説教を食らったが、そういう時は仕方ないなあと思っていた。

そんなことよりも、朝早かったため起きて飯を食う時間がなく、何も食べずに仕事をすることが多かったのが辛かった。力仕事だったから働いているうちに目まいがしてくる。そんな時は自販機のリアルゴールドを飲んでやり過ごした。
一度、初夏の暑い日に朝飯抜きで働いていた時、このままじゃ倒れると思い、大量の箱買いバナナから一本だけ失敬して服の下に隠し、トイレで食べたことがあった。

市場を歩いていると、意外なことに久しぶりという感じがしなかった。ただ一点当時と違っていたことは、地面にたばこの吸い殻が一本も落ちていないことだった。
当時は誰も彼もがあちこちでタバコを吸っていたので、吸い殻が地面にたくさん落ちていた。仕事終わりに店周辺を掃除し、それらの吸い殻を掃き集めたものだった。

キツイ仕事だったが、経験できて良かったと今では思う。

市場を出た正面の道を右折し多摩川に向かった。突き当たりがちょうど、先日のマラソンで見かけた桑の木の近くだった。
木のそばに自転車を止め、さてと、という感じで桑の実を検分する。
見た感じでは黒い実は少なかった。昨日の強風で地面に落ちてしまったのかもしれないと思った。
それでも先週馬橋公園で見かけた桑の木より大きな木だったので、周囲をひと回りして実を摘んだ。

視線を川の方向に転じると、いくつかの木が見えたので、近くに行ってみることにした。

草を踏み分けて近寄ると、果たしてそれらも桑の木だった。しかし道沿いの木と比べると、ついている実はずっと少なかった。

そのあたりに生えているのはどれも桑の木だったので、川岸に向かって一本一本調べていった。川に一番近いところにある木に大きな実が沢山ついていた。それまでに積んだよりも多くの実をその木から摘むことができた。

そのエリアの採集がひと段落したので、自転車に戻り是政橋方面に向かった。

途中の河岸が林のようになっていたので、草を踏み分けて林に入ってみた、桑の木がたくさん生えていた。しかし、ついている実はサイズが小さかった。黒い実にはオオテントウムシが食事にありついているのが多かった。

林にはビワの木もあり、こちらも実をつけていた。開けたところの木陰にテントを立ててくつろいでいる人がいた。

そのエリアでの採集を諦め、是政橋を渡ってみた。多摩川右岸に桑の木があるというネットの記事を読んだからだったが、行ってみると木はどこにも生えておらず、河岸は平坦になっていた。

橋を渡って府中市側に戻り川岸を散策した。ここには小さめの桑の木がたくさん生えていた。しかしさっきと同じく実は小さかった。

橋の東側の林には実をつけたクルミの木がたくさんあった。

橋のたもとにある桑の木から実を摘み、今日の採集を終えることにした。そこそこ摘めたが、1キロには満たない感じだった。時刻は9時半になっていた。

府中駅近くの駐輪場に自転車を止め、TOHOシネマズ府中へ。
10時に館内に入った。

『ストーリー・オブ・マイライフ』の映画評を町山智浩さんがラジオで語っているのを聞いたのは2月だった。その時はまだシアーシャ・ローナンのファンではなかった。その後、この映画の宣伝写真を見て、走るシアーシャの表情に興味を持った。生命力にあふれた表情だと思った。

それで、何気なしにAmazon Prime ビデオでシアーシャ・ローナンの出演する映画を検索した。色々ヒットするうち、『レディ・バード』を選択した。

それからふた月半経った。シアーシャ・ローナンの出演映画は、日本未公開以外のものは全部後追いで見た。予定では、見終わる頃に『ストーリー・オブ・マイライフ』公開のはずだったが、再度の延長で今日になった。

待ちに待ったどころじゃない。待ち構えていた。

映画館の席は、ひと席ずつ空けるようになっていたが、そうしなくてもいいんではないかと思えるほど空いていた。平日金曜朝の10時10分に府中の映画館が『若草物語』映画で満員になったらすごいことだが。

始まってすぐ、この映画は現在と過去を行き来する構成なのだとわかった。テンポ良く切り替わり、かつ区別がつきやすかったので、混乱はしなかった。

ジョーとローリーがパーティーで出会って、会場の外ででたらめダンスを踊るシーンがよかった。シアーシャがジョーを、ティモシー・シャラメがローリーを演じるのだが、二人は男と女というより、遊び仲間に見えた。

ベスが猩紅熱から回復する過去場面と、亡くなったことを示唆する現在場面が、同じ構図で撮られているのが良かった。
そのあとで、ジョーが母に孤独を語る場面がある。シアーシャの演技は、どうしようもないほどの孤独に本当に苦しんでいる人間を表現しており、感情移入させる力がすごかった。
ジョーは過去を思い出し、あの時もしああしていたら、と、後悔の言葉を吐く。それは過去場面にあったローリーの告白のことで、ティモシーが男らしくてすごく良かった。ジョーへの愛情を大切に育ててきて、ついに愛となったそのかたまりをほとばしるように吐き出していた。

ジョーが、エイミーとローリーの婚約を知る現在場面は、その流れからいくととどめの一撃だったが、そこから再び筆を執り小説を書き始め、没頭し、ついには完成させるまでの映像が、静謐で力強くポジティブだった。ここは鳥肌が立った。

エンディングは、グレタ・ガーウィグがこの作品に込めたメッセージといえる展開になっていた。後味も良かった。

2時間以上あったが、終始没頭して見ることができた。客が少なかったため、遠慮なくボロボロ泣けた。

映画館を出ると12時半になっていた。

昼飯を『ラーメンショップ椿』で食べようと思い、新小金井街道を北上した。

ネギチャーシュー麺の中を食べた。食べ終わってからすぐに自転車に乗り家に向かった。血糖値が上昇する前に、消化するそばから消費してやる心算だった。

10キロほどゆっくり漕ぎ、オリンピックに寄り、水耕栽培のためのカルキ除去剤を買った。その後もゆっくり漕ぎ、2時半帰宅。

シャワーを浴び、サミットへ行き、ホワイトリカー、氷砂糖、ビールを買った。

摘んできた桑の実の重さは660グラムだった。それを広口瓶に入れ、氷砂糖とホワイトリカーを注いだ。

ビールを飲み、8時近くまで昼寝した。

起きてサイダーを飲んだ。朝っぱらからの自転車行と桑の実摘みで体内の水分が枯渇していた。サイダーを飲んでからまたビールを飲んだ。

2時就寝。