流氷を見に行く

3時50分起き。朝飯にトーストを食べ、歯を磨き、着替え、4時半に家を出た。

高円寺の駐輪場に自転車を止め、羽田空港へ。

そそくさと保安検査を済ませ、スマホの充電をしようと思ってポーチをあけると、ACアダプターが入っていなかった。実家に忘れてきたらしい。しかし、対馬に行ったときにキーボード充電用に買ったUSBケーブルを持っていたので、充電スポットでUSB接続をして充電した。

7時の女満別行きに乗る。上空から旧江戸川の『うひょゾーン』がよく見えた。

読む本として、ハンナ・アーレントの『エルサレムのアイヒマン』を持ってきていたのだが、飛行機の中で読むには適してない本のように思えたので、機内モードのスマホで日記などを書き散らした。

9時近くに女満別に着いた。すぐシャトルバスに乗り網走に向かう。

網走のバスターミナルには9時半過ぎに着いた。予定よりは大分遅れたが、特にすることはなかった。

持ってきた一眼レフをリュックから出し、巻き上げ確認をした。昨年夏からほとんど使ってこなかったので不安だったが、不安は的中し、巻き上げレバーを巻いてもシャッターが切れない現象が起きてしまった。

装填していたフィルムをすべて巻き取り、巻き上げレバーを何度も巻くことを繰り返してみたが、シャッターは切れなかった。せっかく持ってきたのに、ただの荷物になってしまった。写真はスマホで統一するしかない。

充電環境を何とかしないといけなかった。この先はコンセント経由でできないとできないだろう。

網走市内は寒かったが、思ったほどではなかった。

とりあえず、Google マップでコンビニを調べ、ACアダプタがあるかを調べることにした。

はじめにセブンイレブンに入った。ACアダプタはあったが、値段が高く感じられたので、その近くにあるスーパーを覗くことにした。

スーパーは100円ショップも兼ねていた。USBケーブルは売られていたが、ACアダプタはなかった。そりゃそうだろう。ダイソーなら300円とかでありそうだけど。

次に、パソコンショップに行ってみた。中野ブロードウェーにあるパーツ屋みたいな雰囲気の店だった。ACアダプタは古ぼけたのがおいてあったが、3000円もした。これならセブンイレブンで買った方がいい。

セブンイレブン以外のコンビニは、北海道といえばセイコーマートだ。行ってみたが、iPhone用の、lightningのケーブルがついたものしかなかった。

結局、セブンイレブンで買うことにした。背に腹は代えられない。

先ほど入ったセブンイレブンに戻ると、小さいACアダプタは1000円程度だったので、それを買った。ついでに、100円ショップにもまた行き、USBケーブルを買った。

そうやって街を歩きながら、雪道歩行に体を慣らした。つくづく思ったが、道民にとって冬の道は基本的に滑るのが前提なのだろう。道なんか信じていないのだ。ドント・トラスト・オーバー・サーティー、あとアスファルト、みたいな。

11時半、洋食屋の『ホワイトハウス』へ。ここは以前網走に来た時に入ろうとしたら品切れ閉店していた店だ。今回はリベンジを果たすつもりだった。

ところが、開店時刻の11時半になっても店はあいておらず、入口には『12時から』という紙が上から張られていた。

歩き回って時間をつぶすのはやめ、店の前で辛抱強く待つことにした。

11時40分頃、店の奥さんが外に出てきた。オレに気がつくと、

「すみません、暖房が故障してしまいまして、寒くてもよろしければ…」

と言ったので、『蒲田行進曲』の銀ちゃんがサインを頼まれたときみたいな笑顔で、

「大丈夫ですよ」

と返事をし、中に入った。

ウニいくら丼とステーキのセットを頼んだ。普通に考えたら「なにそれ?」と言うようなメニューであるが、それがここの名物なのである。

ステーキはおよそ100グラムと、量は普通だが、とてもおいしかった。ウニいくら丼は想像したよりもボリュームがあり、いくらは結構たくさん入っていた。ただ、一度にうまいものを何種類も一緒に口に入れると、味覚の情報処理能力がパニックを起こしてしまい、間にカラムーチョとか食べても同じくらいうまいと感じるんじゃないかと思った。

食後、流氷硝子館へ。

ここの硝子は、蛍光灯などの廃品を再生したエコピリカというものらしい。手作りの様々な製品が売られていた。

グラスをひとつ購入した。会計をしている時、レジにあるイヤリングが目に入った。柿の種をモチーフにしたイヤリングだった。樹脂で作られたもので、井内法子さんという北見の作家さんが作ったものだった。たいへんかわいく、欲しいいい! と、強く思ったが、イアリングする習慣はないし、結局買わなかった。

コインロッカーに荷物を預け、14時、流氷砕氷船おーろら号に乗る。

流氷は、網走の沖合い数百メートルに接岸していた。船はそこまで行き、氷を割り進み、また港に戻るのである。

流氷はどれもぶ厚く見えたが、すべてが氷なのではなく、上に雪が積もったために厚く見えるのだった。船に押しのけられて斜めになった氷に波が打ち寄せると、表面に積もった雪を洗い落としていた。

氷の所々が青く光っていた。割れたり、斜めに積み重なったりした氷が海水を反射し、別の氷に光を映すと、青くなるようだった。

氷の上に生き物の姿はなかったが、オジロワシが遠くにいて、砕氷船と平行に飛ぶのを見た。

グローブ、ネックウォーマー、ヒートテックで臨んだが、今日はおそらく暖かい日なのだろう、寒さにめげることなく終始デッキで流氷を眺めることができた。

15時に港へ戻った。

荷物をロッカーから出し、流氷ソフトクリームを食べ、一眼レフカメラの巻き上げレバーをもう一度確認してみた。昨年修理に出したお店の人に、時々はシャッターを切った方が良いと言われていたのだが、フィルムが残っていたので、半年くらいそれができなかったのだ。で、一種の健康体操みたいな感じに、巻き上げを繰り返したら、機械が温まってなんとかなるんじゃないかと思ったわけだ。

何度か巻き上げていると、一度、シャッターがセットされた。おっ? と思ってシャッターを切り、もう一度巻き上げると、またシャッターが切れなくなっていた。再度、巻き上げ巻き上げ巻き上げ、を続けた。すると、何十回目かに再びシャッターがセットされた。切る。巻く。また切れなくなっている。巻く巻く。今度は三回目でセットされた。切る。巻く。セットされた。切る。巻く。セット。

こんな感じに5分くらい巻き上げを繰り返していると、すっかり調子が良くなってきたので、持ってきたフィルムを入れた。

一眼レフで写真を撮りながら網走駅に向かった。

17時25分の特急に乗る予定だったが、それまで時間は1時間半ほどあった。駅にコンセントはなかった。スマホの電池は残り20パーセントほどになっていた。

ふと、今のうちに現金をおろしておいた方がいいのではないかと思った。夜に乗る予定の路線バスは現金のみだし、距離が長いと結構かかる。

駅の近くにあるセブンイレブンまで歩いた。途中、四年前に止まったホテルの前を通った。

セブンイレブンでお金をおろし、ポケット瓶のウイスキー、水、明日の朝飯用に『やきそば弁当』と、ボクサーブリーフを買った。

駅に戻ると、ちょうど特急がホームに入ってくるところだった。ホームに入り、自由席の列に並んだ。

列車の中にコンセントがないかと期待したが、自由席にはなかった。この先はスマホをあまり使わないようにしようと思った。

日が沈んだ頃、列車は駅を出た。鹿が出没した場合急停車することがあるというアナウンスが流れた。

車中、『エルサレムのアイヒマン』読む。ドイツ以外のヨーロッパ各国は、ドイツによる移送に関わる部分で、自国のユダヤ人をどうしていたのかについて。デンマークの対応が最も人道的だったことは初めて知った。

19時過ぎ、遠軽で降りる。

夕食を食べに、調べておいた食堂へ行くと、本日貸し切りの札が出ていた。仕方なく、プランBの店に移動。かに飯御膳を食べた。

本日の最終目的地、紋別に行くバスを、ターミナルで待った。朝買ったACアタプタでスマホを充電する。ケーブルのせいか、急速充電はできなかったが、30パーセントまでは回復できた。

21時過ぎ、紋別行きの最終バスに乗る。路面は雪かきがされているとはいえ、夜なので凍結しているし、ノロノロ運転で走るのだろうなと思っていたら、猛スピードで走行したのには驚いた。

22時40分過ぎ、紋別到着。運賃を払うとき、小銭がバスの外に転がり落ちてしまったのを、若い中国人の旅行者が拾ってくれた。お礼を言った。

バスターミナルのすぐ近くのホテルにチェックインする。疲れて、一杯やったりする気分ではなかった。

11時過ぎ、バタンキューといった感じで就寝。