日本シリーズのエンディング

 夕方、東池袋へ行った帰りにシアターグリーンのそばを通ったら、「ラーメン二郎」の隣に「大勝軒」ができていた。
 中に入ってつけそばを頼む。
 中野の大勝軒とは違う系列らしく、たれは甘めで麺はそれほど太くなかった。
 入り口近くのカウンター席には女子高生4人組が座っていて、若い店員の兄さんがしきりに話しかけていた。
 それだけならいいのだが、トッピングをこっそりサービスしており、あまりいい気分はしなかった。
 隣の「ラーメン二郎」は満席だった。

 高知の小松から返事が来た。

 

ハァイ、仮健サン (笑)。阪神優勝、又は大敗のどちらかで封書を差し上げようと思っておりましたが健闘でしたので葉書にて。多くの言葉は要りますまい。
 一点、星野氏はやはり、情の人だなあと感じました。第六戦、ムーアか福原が先発だったら、勝利の女神は異なる結果を用意したかもしれません。
 伊良部はダイエーの機動力の前に敗れ去りました。後任の岡田新監督がヤクルトの政権交代に学べるかどうか、が今後の阪神の命運を分けそうです。若松さんはああ見えて偉い人だと思います、今では。阪神のフロントは星野氏との縁を活用すべきです。ただの飾りにしては○○の長嶋、原両氏の扱いと変わりません。
 星野氏著、”夢”、面白かったです。基本は経営学ですが、エピソードの数々が。
 あの星野さんが”長嶋語を操った”帯のインパクトもさることながら、あの「家なき子」のファンだったこと、黒田編成部長との秘話(泣けました)などなど。興味が湧いたら御覧ください。それでは。

 基本は経営学というところがうなずける。
 星野さんはビジネス書や経済書を熱心に読み、その知識を監督業に生かしていたらしい。

 第六戦の伊良部起用に関しては、野球の評論家ならば疑問を覚えるところだろう。
 しかし、星野監督が伊良部起用で勝てると思っていたはずはないと思う。
 おそらく、目的とするところが勝利ではなかったからこそ、堂々と伊良部を起用できたのではないか。

 昔、真剣勝負が売りだったUWFで、エースの前田と若手の船木が戦った時、船木をスリーパーでしとめた前田が試合後リングの上で船木に何事かを語りかけた。
 当時様々な憶測を呼んだシーンだ。
 引退した船木が書いた本によれば、その時に前田が言った内容はこうだったらしい。
 「お客さんが全然湧いていないだろ。こんな試合をしていたら俺たちは駄目になる。もう少し考えろ」
 これは、格闘技とプロレスのあり方がどう違うのかを見事に表したエピソードだ。
 レスラーは、本気で戦った場合、試合が膠着状態になることを知っている。
 だから、あえて技を受ける。
 そうしなければ、お客さんに面白さが伝わらないのだ。
 しかしそれが不満だという格闘技思考のファンが当時は多かった。
 そんなファンの需要がUWFの隆盛を生んだのだが、そのUWFでさえ、お客さんがわかるような真剣勝負らしさを演じなければならなかったのだ。
 相当難しいことだ。

 今回の日本シリーズにおける星野監督は、勝ちすぎず負けすぎず第七戦までとことん戦い抜くということが最大の目的だったのではないだろうか。
 だから第六戦で弱い阪神が強いダイエーにムードで優勝してしまっては困るのだ。
 ダイエーはあくまでもとことん強いチームでないといけない。

 結果的に第六戦でシリーズの流れはダイエーに向いたとされている。
 だが甲子園の第五戦で阪神が勝利した時点で、星野監督はもはや勝つための指揮を放棄できた。
 なぜなら、あとは第七戦にもつれこみさえすれば、物語は完結するわけだから。

 王さんは違う。
 球団史上最強とされた今年のホークスでシリーズ優勝を決められなければ、リーグ優勝が無に帰してしまう。
 つまり、負けたら言い訳ができないのだ。

 シリーズ中いろいろなスポーツ紙を見た。
 どの新聞もあからさまにとは言えないが、阪神びいきであるように思えた。
 これはシーズン中から試合前後の談話を通じてマスコミとのコミュニケーションを密に保ってきた星野さんの成果だと思う。

 第七戦で阪神は負けたが、暴れる阪神ファンのニュースは全く聞かなかった。
 道頓堀には「星野監督ありがとう」の垂れ幕が下がった。
 物語を終えるのにこれほど理想的な展開はないだろう。